収納の記憶
「マイ、アン。どうしてここに……ザップの収納には生き物は入れないんじゃないの、もしかして、死んでるの?」
白い世界を進む僕達の前に、おもむろに2体の石像が現れた。
猫のような耳のおおきな斧をもった女性と、角の生えた小柄な僕と同じ位の身長の女性だ。
妖精は滂沱と涙をながしている。つられたのか、僕の目にも涙が浮かぶ。
「マイとアン、あんたの一番仲が良かった仲間よ、いつもあんたと一緒にいたのよ。思い出した?」
「ごめんなさい、なにも思い出せない……」
「そっか、ごめん、あんたの記憶を奪ったのは、あたしだったわ……」
妖精は珍しくうなだれる。
「まるで、生きてるみたいだね」
「そうよ、生きてるに決まってるわ。石化してるだけよ、戻したら絶対生きてるはずよね」
「僕はこの人たちが誰かはおもいだせないけど、僕の大切な人って言うのは解る。見てるだけで、なんか悲しくなってくる。ミネア、安心して、この人たちは絶対に元に戻してみせるよ」
「そう、ラパン、約束よ」
「ああ、約束するよ」
「つらいけど、先に進むわよ」
妖精が進み、僕はついて行く。もしかしたら動き始めるのでは無いかと思って何度も振り返ってしまう。
しばらく進むと木の家にたどり着いた。中に入ると懐かしい気がする。間違いない。僕はかつてここにいた。一通りまわり家の離れに入るとそこは浴室で豪華な石で囲んだお風呂があった。
「ポータル……」
僕は呟く。そうだポータルでここは管理されてた。なんで、大事な人の事は思い出せなくて、結構どうでもいいことは思い出せるのだろう。
しばらく進むと、目の前に見えない壁があって進めなくなった。迂回しても前に進めない。
「ラパン、これから先は石になってるみたいよ」
妖精が先を指さす。見ると視界がはっきりしてきて、いろんなものが見えて来た。
石化したおおきな犬、石化した武器防具、石化した食べ物、石化した訳の解らないもの。
「何なのここ、お墓みたい…」
僕は呟く。
「ある意味お墓ね、収納のスキルに入れた古いものから石化したみたいね。けど、いくつか使えるものもあるみたいだったわ。ラパン、足下」
ミネアに言われて足下を見ると、ノート位の大きさの薄い板が。僕はそれを拾う。
「タブレット……」
僕は思い出した。これで収納を完了できる。けど、画面の半分以上は石になっている。
「ラパン、もう限界、帰るわよ」
「あ、うん」
妖精の姿が薄れ、僕の姿も薄れていく。
気が付くと元いた所だった。僕は手にタブレットを持っていた。