はんにゃのめん 中後
「私の武器は明晰な頭脳」
導師ジブルが立ち上がる。
「まあ、そんな呪いなんかに屈することは無いと思うけど、少しでも陰りが出ると困るから、その仮面は遠慮しとくわ。忙しいからそろそろ行くわね」
ジブルは背を向けて手をヒラヒラしながら部屋から出て行こうとする。逃げようとしてやがるな。
僕はシャリーちゃんの手から仮面を取ってジブルに近づきその顔にはめる。
「何すんのよ。この腐れザップ」
「呪いなんかには屈しないんだろ。じゃ問題ないだろ」
「うううっ、体がっ!」
仮面を付けたジブルはしゃがんで蹲る。おいおい、即座に呪いに屈してるじゃねーか。相変わらず口だけだな。
ファサッ。
軽い音を立ててジブルが着ていたローブが床に落ちる。決して脱いだ訳じゃない。体が縮んだからだ。それにしても奴はどこからどうみても混乱してる。
『るーるーるるるるー。私はホネ、ホネ、ホネ、ホネッ、ホネホーネッ』
音程が外れた謎ソングを歌いながら、ジブルがキレッキレのダンスを踊る。はんにゃのめんを被った小柄のスケルトン。スケルトンジブルが久しぶりに降臨した。スケルトンジブルは話す事が出来ないから、魔法で空気を震わせて囁く声みたいなものを発生させる。
そこにどこからともなく一匹の蛇がニョロニョロやってくる。それはジブルの足に絡みながら這い上がる。そう言えば、コイツの特技は変身で、第一形態がスケルトン、第二形態がヒドラだったな。あとドラゴンにも変身できる。正直迷惑この上ない生き物だ。そう言えば、ヒドラに変身するためのトリガーが、ペットの蛇との合体だったな。
「その蛇を捕まえろ」
いかん、遅かったか?
『合体!』
ジブルが囁く。そして、蛇がホネに吸い込まれていく。まずい、こんなとこでヒドラになられたら、大事な僕の家が破壊される。
「シャリー、解呪だ解呪」
「分かった」
シャリーちゃんの手から光の帯がジブルに向かって放たれる。ジブルからは、ブクブク沸き立つように赤黒い肉が盛り上がり始める。気持ち悪いな。ジブルの顔から仮面を引っぺがし、もう片方の手でその首根っこを引っ掴み、うげ、うにゅうにゅしてる、思いっきり窓に向かって投げつける。
ガシャン!
ジブルは窓を突き破って飛んで行った。
「悪は滅びた」
良かった。ガラス一枚で被害がすんだ。
「何言ってるのよ。今回はザップが悪いわ。あとで謝っときなさいよ」
「ギシャーッ!」
窓の外で獣の叫び声がする。
「あんた達言う事聞きなさいよー」
ジブルの声だ。めでたくヒドラになったみたいだ。ヒドラの首は幾つもあるが、ジブルはそれをコントロール出来ない。外では、ジブルとヒドラの仁義無き戦いが繰り広げられている事だろう。




