北の魔王参戦
「わらわの名前はリナ・アシュガルド。本当にお前がザップの生まれ変わりなのか?」
僕は凍りついた。
目をあわせたらいけない。
絶対かかわってはいけない種類の人だ。
まだ幼さの残る少女が店の中に駆け込んできて、僕の前で腰に手をあてて耳が痛くなるような大音声をあげている。偏見かもしれないけど、大声で話す人って頭があんまり良くないように見える。
薄い金色のツインテールで、僕と同じ位の年だ。何て言うか線の細い系の美少女さんなんだけど、その恰好が全てを残念な方に持ってってしまっている。
なんと、まだ幼くてめっちゃ可愛いのに、身に着けているのがギラギラ光る金のブラジャーとパンツだけなのだ。一瞬にして店のお客さんの視線を釘付けにしている。僕は目の端でそれを見ている。金のパンツ……嫌な予感が……
「すみません、お客様、多分人違いだと思います。私の名前はラパン。ザップという人とは、無関係です」
僕は横をすり抜ける。今はお店のランチ前、店の半分位はお客さんで埋まっていて、今からが忙しくなる。変なのに構ってる暇は無い。
「待てい、ラパンだろうがザップだろうが関係ない。こっちに来い」
リナと言った少女はがしっと僕の手を掴む。ん、なんか昔こういう事があったような?デジャヴってやつか?
「すみませんが、今からお店が忙しくなるんです。後にして下さい!」
僕はぴしゃっと言って手を振りほどこうとするが。めっちゃ力が強く振りほどけない。僕は力の強さには自信があるのに、化け物なのか?
「離して下さい!」
僕はリナを睨む。リナは僕をじっと見つめる。
「すまん、人違いだった。騒がせたな……」
リナは僕の手を離して背を向けようとする。それに向かって高速で飛んでくる何かが?
「妖精キーーック!」
「あふっ!」
それはリナの顔に飛び込んでいった。その端正な顔の頬に小さな足が刺さる。ミネアだ、妖精のミネアだ。昨日の夜出て行ったきりだったのだけど、残念な事にやっぱり戻って来たか……
「リナ!そんな下着だけのはしたない恰好の人の言う事誰も聞かないって言ったでしょ!服を着なさい、服を!」
ミネアがキンキン声をはる。小さい体のどこからそんな大きい声を出しているのだろうか?
「痛いじゃないか、何を言ってるのだ。お前などいつも幻を纏っているだけで裸だろ。裸族にはしたないとは言われたくないものだ。わらわはしっかり服を着ている!」
見えるけど存在しない服を着るのか、金色の下着だけで人前にでるのか、正直どっちも嫌だ。どっち選べと言われても恥ずかし過ぎて無理だ。間違いなくこの2人はある種の変態だ。
「すみません。忙しいのでこれで……」
僕はこの場を離れようとする。
「ラパン、待つのよ。リナ、見てみて!」
ガバッ!
お尻がスースーする。
「キャッ!」
妖精が僕のスカートをめくっている。
「おおっ!」
「ラパンちゃんも金のパンツ!」
「今日来てよかった!」
お客さんからどよめきが上がる。僕はスカートを押さえる。
「ミネア、何するんだよ……」
僕は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じる。
「それは、ザップにあげた金のブーメランパンツ……なぜお前が……」
リナが僕に詰め寄ってくる。
「お前がザップから合意の上、脱がして奪ったのか……」
リナが目をまん丸にして僕を見つめる。少し憧憬のようなものが混じってるような……
「ラパンちゃん、急いで、今日はメイが熱出したんで、家に帰したわ。忙しくなるわよ。今日は2人だけどがんばるわよ」
マリアさんがすたすたやって来て僕の手を引く。
「マリアさん、欠員が出たんですか? こいつ、手伝わせましょうか?」
いつの間にか妖精はメイド服に着替えている。やる気まんまんだな。
「よいだろう。ザップがパンツを託したと言うことは、妾にとっても仲間同然だしな。困ってるのであろう。北の魔王の名にかけて助太刀しよう!」
リナが仁王立ちで吠える。この人大声しか出せないのか?
頭大丈夫か?
「ありがとう。猫の手でも借りたいのよ」
マリアさんが走って服を持ってくる。裏でリナはそれを着て出て来た。
「さあ、何者でもかかってこい!」
リナはまた吠える。
けど、メイド服が似合ってて超可愛い。
こうして新しく北の魔王リナが僕らの仲間になった。