メイジイ
「自分は人を殺したくせに、自分は死にたくないっていうのはおかしい」
トンガリ帽子のじいちゃんが口角泡飛ばしながら力説している。
僕の名前はラパン・グロー。ここ『みみずくの横ばい亭』のウェイトレスだ。
じいちゃんの名前は『メイジイ』と呼ばれている。お店の常連客だ。まあ、僕は『先生』って呼んでるんだけど、他のみんなは陰で、メイジのジジイ、略して『メイジイ』って呼んでいる。お客様は神様、だから、変なあだ名付けるなよとは思うけど、今のご時世、あんまりみんなそういう意識は持ってないみたいだ。
それはおいといて、メイジイさんは昔は王都の魔道学校の先生をしてたそうだ。まあ、本当かどうか分からないけど、話し口調からそうだったんじゃないかと思う。それで、僕は相手に長々と話し始めて、なんでそういう話しになったか忘れたけど、死刑囚の話になって、先生にスイッチが入った。
「だから、殺人者が死刑になって死にたくないっていうのはおかしい。罪の意識が無いんじゃないか?」
また、同じような事言ってる。
「まあ、そうですよね」
僕は無難な返事をする。けど、先生が言ってる事については人それぞれだと思う。僕だって戦いで人を殺めた事はある。まあ、正当防衛だけど、やはり戦いで相手を殺すつもりで望む以上、いつでも自分がやられるかもしれないという自覚はある。まあ、けど、犯罪者の殺人者であっても、自分が死ぬのは嫌だというのは当たり前じゃないかなと思う。
「死にたく無いって言う前に、謝罪でしょ。謝りもせずに死にたく無いって言うのはおかしい」
うん、そういう話なのね。死刑になるような罪を犯して謝りもせずに死にたくないって言うのはおかしいとは思う。けど、そういう反省の意思がないから、再犯の恐れがあるから死刑になるんじゃないかと思う。まあ、けど、僕は死刑自体には反対だけど。
「刑務所に入った人の再犯率はどのくらいと思う?」
いきなり質問?
「分かんないです」
「王国ではなんと7割だよ。それに囚人は三食ついて、医療も受けられて、少しお金も貰える。そのお金が財政を逼迫してるんだよ。おかしいと思わないか?」
んー、話なげー。とはいっても今、店、他のお客さん居ないんだよな。なんか囚人の話してるけど、僕が囚人みたいだよ。けど、このじいちゃんは寂しいんだろな。しょうがない。話聞いてやろー。
「うーん。そうですよね」
正直どうでもいい。
それから、メイジイは1時間くらい話しつづけた。なんて言うか、お客さんが楽しそうに話してたら、逃げにくいんだよな。まあ、けど、喜んで貰えたっぽいからいいか。




