ねこじゃらし
「うりゃ、うりゃうりゃうりゃうりゃ」
マイがしゃがんで何かしてる。僕が近づくと、マイの前で猫がお腹を上にゴロゴロしてる。それをマイはなんかモフモフした草でくすぐってる。猫は僕を見るとクルッと起き上がり駆け去っていく。
「んー」
つい声が漏れる。猫、触りたい。けど、逃げる、彼ら……
先日、王都の猫カフェなるこの世のパラダイスに足を運んだんだが、人慣れしてる選ばれし猫の彼らでさえ、僕には微塵も近づいて来ない。もしかしたら、僕には猫避けのスキルがあるのではと思えるほど近づいてこない。
「しょうが無いわよ。ザップー。猫は賢いから危険なものには近づかないのよ」
「危険? 俺が?」
それはおかしい。僕の数倍はマイの方が危険なはずだ。生涯での魔物の討伐数は当然僕の方が上だが、首を狩った数はマイがダントツだ。ギルドに持ち込まれる一撃で首を狩られた魔物を見て自然に『首狩りのマイ』という二つ名は伊達じゃない。
「だって、もしザップが猫だったとして、目の前にドラゴンが居たら逃げるでしょ?」
「まあ、そうだな。でも俺はドラゴンじゃない」
「ザップが今まで倒したドラゴンの数は?」
「今まで食べたパンの数と一緒だ。覚えてない」
なんか昔聞いた格好よい例えを使う。
「はいはい、ザップにとってドラゴンとパンは同じようなものって事よね。そりゃ猫も逃げるわよ」
「そうか。なんかいい方法無いのかなー」
マイはこっちを向いて手にしたものをピコピコ上下してる。緑色の猫の尻尾みたいな草。
「ねこじゃらし」
「うん、ねこじゃらしよ」
「そう言えば、ねこじゃらしって、正式名称何だったかな。イヌコロ草?」
「えのころぐさよ」
「えのころぐさ。そうそう。けど、エノコロって何なんだろう。そう言えば、酒を飲むとこにそんなのあったな」
「それはワインを飲む酒場の事でしょ。エノテカよね。あんまり似てないわ。その『エノコロ』って言うのは『犬っころ』って言葉が訛ったって聞いた事があるわ。確かめる犬の尻尾みたいだからって話だったと思うわ」
「そうなのか。相変わらずマイは物知りだな。ねこじゃらしなのに、犬の尻尾か。なんか犬と猫のキメラみたいな名前だな。それ、貸してよ」
「はい」
立ち上がったマイからねこじゃらしを受け取る。
「にゃん、にゃん、にゃーん」
マイの前でねこじゃらしを振り振りする。
「もうっ。あたしは猫じゃないわ」
マイが膨れる。可愛い。
パクッ。
僕は目の前でねこじゃらしを口に入れる。歯を使って上手く実だけを口に残す。うーん。青臭い。けど、気にせず咀嚼して飲み込む。
「あー。食べたー。何やってるのよ!」
「知らないのか? マイ、ねこじゃらしって食べられるんだぜ。穀物の粟の先祖らしいからな」
草を食べられるか道家については僕はプロだ。
「もうっ、あたしじゃ無かったら
ドン引きよ。それ、生のら猫をじゃらしてたのよ。汚いわよ」
「大丈夫。俺に毒は効かない」
「品性の問題よ」
「ゴメン、悪かった。今度はちゃんと焼いて食うよ」
「食べなくていいわ」
「そうだな。今は雑草食わないといけない程貧乏じゃないもんな」
僕は昔を思い出す。妹とねこじゃらしの穂を集めるだけ集めて、塩水で炊いて食ってたな。また、そういう生活に戻らなくていいようにしっかり働こう。
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