山賊サラダ
「おいっ、ねーちゃん、ここのシェフは素人なのかー?」
胴間声が店内に響く。お洒落なカフェにそぐわない男、獣の皮の鎧にボサボサ頭にひげ面。その剥き出しのぶっとい腕には髑髏のタトューが入っている。見た目は頭にイメージ出来るごく一般的な山賊だ。けど、んー、多分、冒険者だな。盗賊系じゃないな。靴がゴツい。あれは大きな男を立てるだろう。戦闘職だな。
「なんで、あんな奴がこんなとこにいるんだろ」
マイが山賊を睨む。まあ、たしかに浮いてるけど、まだ、ただ店員に絡んでるだけだ。おせっかい焼くまでは無いだろう。
「いかがなされました? お客様?」
山賊のところに、コックコートにコック帽のおどおどした女性がやって来る。
「あん、お前がシェフか?」
「そうですけど」
「これ、見ろ」
山賊は顎でサラダを指す。横着だなぁ。
「それが、どうなさいました? もしかして、何か入ってました?」
「いや、そんな事は無い」
「お口に合いませんでしたか?」
「うんにゃ、旨い」
山賊とシェフの声だけが店内に響く。BGMを奏でていた吟遊詩人も演奏を止めている。
「それでは、どうされたのですか?」
「よーく見ろ」
山賊はサラダを指差す。
「レタスだ」
「レタスですか?」
「レタスが切ってある。俺はここが素晴らしい店だと聞いて、こんど目当ての女の子をここに連れて来ようと思って下見に来た。だが、これはなんだ? オメーも料理するなら知ってるだろ。レタスはなぁ、千切った方が長持ちするんだよ。だから手で千切るものだろ。俺はただ失望した。今作ってる分の金は払うから帰るぞ」
うわ、見た目と違って細かい奴だな。レタスなんか切ってあろうが、千切ってあろうが旨かったら関係ねーだろ。
山賊は立ち上がる。けど、その前に立つのはマイ。
「おじさん、何か勘違いしてるんじゃない?」
「なんだ? お前は?」
「あたしが誰だっていいでしょ。レタスが切ってあるってそれがどうしたの?」
「んぁ、そりゃオメー。レタスを切るような二流の店なんかで金払って飯食えるかっ!」
「やっぱり、分かってないわねー。確かにレタスは千切ったら長持ちする。けど、長持ちするだけなのよ。気付かないのここは長持ちさせる必要が無いのよ。ずっとこまめにサラダを作ってるから、すぐに使うならレタスは千切ろうが切ろうが関係ないのよ。要は、レタスを千切る暇を惜しむくらいこの店は繁盛してるって事よ」
「えっ、まじか? そうなのか?」
山賊はシェフを見る。シェフはコクコクと頷く。
「恥ずかしいな。俺の勘違いだった。後の飯も持って来てくれ」
山賊はテーブルに戻る。マイも戻ってくる。
「おせっかいだったかなー」
「いやー、マイが行かないから。俺が行ってたよ。多分肉体言語になったけどな」
「だめだよ。こんなお洒落なカフェで揉め事おこしたら」
「そうだな」
僕らはそれからカフェで軽食とデザートを楽しんだ。どれもこれも美味しかった。
後で店員さんに聞いて話だけど、あの山賊野郎はタキシードで綺麗な女性を連れて来たそうだ。
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