味噌汁
「しょうがないな、少し待ってろ」
忍者ピオンはそう言うと、鍋を出して火にかける。ピオンも管理者なので、僕の収納スキルを自由に使う事が出来る。
今回の依頼は、ピンクスライムの捕獲。突然変異でたまに発生するピンク色のスライムをこの森で見たという情報があり、好事家が依頼したものを僕たちは引き受けた。報酬がべらぼうだったのと、この森ではオーガの目撃情報もあり二の足を踏んで引き受ける者が居なくて放置されてたらしく、マイが「ラッキー」とか言いながら依頼書をもいでいた。
僕、マイ、アンだけだと索敵能力が心許ないので、マイがピオンを呼び出した。どうも朴訥なピオンの事をマイは気に入ってるみたいだ。
そして、しばらく森を探索し、火を焚いて飯を食ったあと、アンが「なんかまだ小腹空きまろ」とか言って騒ぎ始めたので、ピオンがそれに反応してしまった。アンの胃袋はブラックホールだから、放置でいいのに。
「こんくらいでいいか」
おかっぱ頭を揺らしながらピオンが鍋を覗いている。いきなり坪のようなものを出すと、匙で茶色いドロッとしたものを鍋に入れる。なんだありゃ? 匂い、見た目、確かあれは味噌という東方の調味料。昔、マイとピオンが寿司を作ってくれた時に、アレを使ったスープを飲んだな。けど、茶色ペースト状っていうのは見た目よろしく無いな。
「ピオン、なんだそれ?」
アンがピオンの坪を覗き込む。茶番だな。アンは食べ物に対しては無類の記憶力を発揮する。知ってて知らないふりしてやがる。
「もしかして、『オソマ』か?」
なんだ? その『オソマ』って? アンの事だからマイを挑発するために下劣ネタをぶっこんでくると思ったんだが?
「そうだ。食べてもいい『オソマ』だ」
そう言うとピオンは味噌汁を混ぜる。『オソマ』って言うのは味噌の別称だろう。ま、いっか。それにしても、えもいわれぬ心地よい香り。
「出汁入り味噌ね」
「さすがマイ、良く知ってるな」
「これね、味噌に出汁も入ってて、お湯に溶かすだけで味噌汁になるってものよ。便利よね」
ピオンは器を出すと、どこからか握り飯を出して器に乗せ、その上に鍋の味噌汁をかける。
「吸い口はゴマでいいか」
「吸い口って何?」
「味噌汁に最後に乗せる香りづけだ」
マイにピオンが答える。東方料理は奥が深いし真新しいものばっかだな。ピオンはゴマをパラパラ振る。直接収納から物を出すとなんか手品みたいだな。
「ほら、食べな」
「ありがとうございます。いただきます」
アンはマイ箸を出して、ピオンから受け取った料理をかっ込む。
「なあ、良かったら、俺にもそれ、貰えないか?」
飯は結構食べたのにアレなら入りそうだ。
「そう言うと思ってた」
うん、味噌汁沢山あるもんな。
「味噌汁ぶっかけご飯は私の生まれた国では行儀が悪いって言われてるけど、忍者にとっては必須だ。手早く食事を取れるからな。しかも味噌汁の味噌は大豆が入ってるから肉の変わりにもなる」
僕、マイ、ピオンもそれをいただく。サラサラしてて、まだあと何杯でも入りそうだ。
「『オソマ』って何だろう?」
マイの疑問に誰も答えない。
それは東方和国の北の方言で、後日、意味を知ったマイが、アンのご飯を野菜尽くしにしてた。




