姫と筋肉 海 6
「って、こんな事してる場合じゃねーし」
ふと、我に返る。いかん、リッチとかに構ってたお陰で仕事をわすれてた。そうだよ、今日は人探しだ。今ここに来るまでも、辺りを見渡してもダークエルフなんか1人も見なかった。目の前のコイツ以外。けど、普通の人がコイツを見てダークエルフと言うだろうか? 再び腕立て伏せを始めたレリーフをじっと見つめる。うん、オーガかジャイアントだ。ダークエルフなんか居ない。まあ、けど、一応聞いてみるか。
「なあ、お前、ビーチで人助けなんかしたか?」
「ん、人助け? 私は困ってる人が居たら基本的に助けるからな。筋肉に恵まれた者の義務だ」
ん、という事は、人助けし過ぎてどれか心当たりが無いって事か? なんか劇のヒーローみたいなセリフだな。
「なんか、商人さんが、ビーチで助けてくれた人にお返しをしたいって探してるんだよ。ギルドまで連れて来て欲しいってさ。お前の事かもしれないから来てくれないか?」
「断る」
「なんでだよ」
「筋肉がある者は筋肉が無い者を助ける。それは呼吸するかのように当たり前の事だ。お前は『呼吸しててありがとう』って言われて金を払う奴居たら受け取るか?」
「屁理屈いうなよ。僕だったら喜んで受け取るよ」
「お前ならそうかもな。だが私は違う。何かした事の対価なら頂くが、弱き者を助けるのは当然の事だし、報酬を求めてやった事じゃない。人が人を助けるのは打算じゃないだろう? 私の行動を見て筋肉の素晴らしさに気付く人が増えるだけで、それは私にとって最高の報酬だ」
なんか良さげな事言ってるが、レリーフはずっと腕立て伏せしてやがる。なに言ってもすんなり頭に入って来ないわ。やっぱ『筋肉』って言葉が全てを台無しにしてるな。
「んー、分かったけど、一端ギルドに来いよ」
「ん、なんでだ?」
「だから依頼だって」
「なんだかんだでお前はお嬢様だな」
「何だよ。失礼だな」
「良く考えろ。人に礼を言うのにギルドに来いはおかしいだろ。普通だったら助けられた方が来るのがすじだ。要は人前に出たくないって事だ。まあ、粗方、あの中年男性は身を狙われてるんだろう」
まあ、そりゃそうだな。依頼人は商人らしいから、そのあたりは良く分かってるはずだ。言われてみたらおかしいな。
「まあ、だから、お礼を払うついでに、私を護衛に雇いたいとかそんなとこだろ」
レリーフは腕立てに満足したのか、ゴロリと転がるとどっからか青い液体を湛えた小瓶を出す。
「待て、レリーフ」
僕はレリーフの顔にバチャバチャエリクサーをかけてやる。これで、筋肉の疲労は取れたはず。レリーフのハードトレーニングはポーション頼りだもんな。
「すまんな、ラパン。どうするか?」
「お前、困ってる奴は助けるんだろ。お前の話では、その商人は困ってそうだな。行くぞ仕事だ」
「しょうがないな、お前に頼まれたら行くしか無いな」
「ねぇ、ちょっとー」
リッチが僕らの間に割り込んでくる。
「なんだかんだで、お二人とも仲がいいのね。いつも2人だし。私は戻るわ」
そう言うとリッチは海に駆けてった。変な事言いやがって、変な空気になるじゃないか。
「私の荷物は宿にある。一端寄ってくれ」
「その前に、すこし泳ごーよ」
「しょうが無いな」
一泳ぎして、なんだかんだで、また、レリーフとひと仕事する事になった。まあ、終わったら、すぐに、また、ビーチに来よう。夏ってすぐに終わるもんな。
姫と筋肉 海 終わり




