久しぶりの格闘技講座インザビーチ(中)
「食らえ、パムパムアッパーカット!」
パムの涼やかな声が辺りに響く。自称吟遊詩人なだけあって、その声はよく通る。パムは大振りの、地面を舐めるかのように低空から握り締めた拳を下からデルむかって突き上げる。見え見え過ぎるぞ、踏みつぶされるぞ。あ、もしかしてそれが目的か? デルは軽く後ろに下がる。金色の髪が流れる。デルはかわす事にしたのか。まあ、パムだから、これは間違いなくフェイント。何らかの意表を突いたアクションに繋げるための。デルはパムが何をするか見てみたくなったんだろう。パムがアッパーを放つ前に手を開く。
ザザーッ。
デル向かって砂粒が放たれる。さすがにデルはこれにはギョッとして目を見開き下がりながら顔をガードする。砂は顔には当たらなかったけど、一流冒険者の投擲。屋根にスコールが降ったような大きな音がした。
「ひやっはー!」
喜声をあげながら、パムは足からスライディングして、デルの足の間を潜ろうとする。その右手はデルのパンツに伸びている。あいつは天才だ。人の服を脱がすという行為においては多の追随を許さない。やられたなデル。
「うごっ」
パムが呻く。
「この腐れ外道が、どこ触ってやがる」
パムの首がデルの両足首に挟まれている。伸ばした手が水着に触れてる。これはアウトだ。サヨナラ。パム。デルはその場でバク宙する。そしてその足でパムを引きずり回しパムは頭から砂浜に叩き付けられる。膝で着地したデルは前転して起き上がる。フランケンシュタイナー、いや、ヘッドシザーズホイップか? まあ、これは相手が目方が無いパムだから可能だった技だろう。使い慣れない、いやもしかしたら初めての技だったのはデルが膝をついた事から伺える。デルは膝と背中の砂を払って、手櫛で髪の毛の砂を落とす。顔怖えよ。不機嫌、めっちゃ不機嫌だ。一方パムは頭から砂浜に埋まっている。両手も一緒にだ。手を伸ばして着地しようとしたけど、あまりの威力にままならなかったんだろう。どんだけだよ。下手したら死ぬぞ。
「パム。立ち上がりなさい」
デルの感情の無い冷たい声が響く。んー、パム、気を失ってるんじゃないのか?
「デル、そろそろ助けてはやらないと奴、窒息するんじゃないか」
「ザップさん」
レリーフが話しかけてくる。
「奴は吟遊詩人。言うには、30分は息しないで歌いつづけられるそうです」
デルは矢のようにパムに直進し、その足をパムに伸ばす。だが、砂が舞い上がり、デルは下がる。砂が晴れたら、そこにはパムが立っていた。




