妖精現れる
「ぜひ、温かいうちに食べて下さいね」
ニコッ!
僕はお客さんにスープを出して笑いかける。お客さんも笑顔を返してくれる。
レストランの昼食時は戦争だ。目まぐるしく注文を取ってどんどん料理を運ぶ。今日はマリアさんと農夫の娘のメイちゃんが一緒に働いている。どんなに忙しくても笑顔は忘れない。マリアさんのいいつけだ。
「ザップー!見つけたわよ!」
なんか入口から女性が僕目がけて走ってくる。そして僕に抱きついた。
「な、なにするんですか、離して下さい……」
女性は滂沱と涙を流し更にしがみつく。柔らかい体が押し当てられて、なんか花のような香りがする。しかも服越しにさわってるはずなのに、素肌に触れてるようや温かみとすべすべした感触が伝わってくる。
「あなた、ラパンを知ってるの?けど、今は忙しいから後にしてもらえないかしら」
「ラパン?ザップでもラファでもないの?似てるけど、そう言えばラファはもう少しほっそりとしてたような……」
マリアさんが腕をつかんで女性を引き剥がしてくれる。緑の服に痩せてるのに出るところの出た大人の女性だ。けど、顔はとても整っているけどあどけない。人の事は言えないけど。
「え、この娘がザップ兄様なの?」
もう一人扉から入ってきた。昨日来た冒険者の魔法使いの巨乳の人だ。
「多分そうだと思うわ、おかみさん、空いてる席座ってもいいですか?」
僕に抱きついた女性は、確認も取らず魔法使いの人と席に座りそしてご飯を注文した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「き、休憩なので、マリアさんが話していいって……」
僕はさっきの2人のテーブルに来た。
「まあまあ、座って、あたしの名前はルル魔法使いよ」
魔法使いさんはルルさんって言うのか。
「あたしはミネア!可愛い妖精よ」
ミネアさんの体が黒いもやのようなものになったかと思うと、そこには蝶のような羽根の小人が浮いていた。うわ、初めて見た。まじか。妖精っているんだ!
「よ、妖精さん、可愛い……」
つい呟く。本当に可愛い。
「あー、なんて可愛いリアクションするの、ザップじゃないみたい!」
妖精さんは僕の胸に飛び込んできた。
「ミネア、この娘がザップ兄様なの?間違いないの?」
ルルさんが問いかける。
「間違いないわ!ラファの体に入ったザップよ」
妖精さんが答える。
「いーい、これからあたしが魔法をかけるから、心の底から思い出したいって願って」
妖精さんが僕の顔の前に飛んでくる。
「待って下さい。僕ってもしかして冒険者だったんですか?」
「ミネアの言うことが正しかったら、あなたの正体はモンキーマンザップ。バリバリの冒険者よ」
ルルさんが僕を指差す。なに言ってるんだこの人は、僕がモンキーマンザップっていう冒険者?
そんな訳ない。だってザップって男の人でしょ、僕は女だし、訳が解らない。
「思い出したくないです。僕は今が幸せですから」
僕は席を立った。もしそうだとしても、冒険者なんて危険な仕事はしたくない。今が楽しいし幸せだから。
「やっぱり絶対違うわよ、この娘はザップな訳がないわ、どっからどうみてもただの女の子よ。ミネア、先に街に帰るわね」
ルルさんは席を立ち店を出て行った。
「幸せか……そうかもね、あたしはしばらく宿に泊まってるから何かあったら来てね」
そう言うと妖精さんは飛んで行った。
「ラパン、今の2人、お金払ってないわ!」
僕は急いで2人を追いかけた。