少女冒険者
「あー、食った食った。旨かった」
赤毛戦士は、おっさんみたいにお腹をポンポンしている。
「アンジュ、はしたないわよ、私達は一応一流冒険者なんだからそれ相応の振る舞いをしなさい」
エルフさんが赤毛戦士をたしなめる。
「じゃ、遅いしそろそろ宿に帰るわよ、あたしは眠いのよ」
魔法使いの女の子がテーブルにもたれて眠そうな顔をしている。凄まじい事に胸がテーブルにのっている。つい自分の胸に手をやる。大丈夫、まだ成長期のはず。
「あなた達冒険者なんでしょう、ちょっと時間いいかな。これはサービスよ」
マリアさんが四人組にコーヒーを出す。
「ラパンちゃん、なにボーっとしてるのよ。早くあれ持ってきて」
「あ、はい、今すぐ」
一瞬あれって何の事かと思ったけど、マリアさんは冒険者風旅人に話しかけて、僕の素性を知ってる人を探すのを手伝ってくれる。けど、あのボロ布を見てもみんな小首を傾げるだけだけど。
ボロ布を持ってくると、それを赤毛さんが手にした。
「あー、これマイ姉様のマントそっくり」
赤毛さんは、布を広げている。
「この娘ね、この布二枚だけ身に付けて街道に倒れてたのよ。誰か見たことある人いないかしら?」
マリアさんが尋ねる。金のパンツの事は僕が恥ずかしがるからふせてくれる。四人とも首を横にふる。
「けど、この布二枚だけってかなり破廉恥ね。あなた、もういい年なんだから体を張ったモンキーマンごっこは止めた方がいいわよ」
胸をテーブルにのっけたまま、魔法使いが口を開く。
「も、モンキーマンって……なんですか……」
僕は声が細ってしまう。何故か若い女性は苦手だ。なんか緊張する。
「え、あなた、モンキーマンザップを知らないの?」
魔法使いが非難するような目で僕を見る。僕はついマリアさんの後ろに隠れる。けど、モンキーマンザップ、なんか聞いた事があるような気がする。
「モンキーマンザップって言うのは、我々の師匠だ。彗星のように現れて、数多の魔物を打ち倒した稀代の英雄だよ。けど、今は行方不明で私達も探している」
赤毛さんが説明してくれる。けど、僕の記憶には引っかからない。
「腰と首にボロ布を巻いて巨大なハンマーで戦ってたそうだよ。見たことないよね?」
神官戦士さんが優しい声で僕に問いかけてくる。想像してみる。人の事言えないけど、その格好はどうかと思う。知能低そうな生き物にしか見えないのでは?
「この布1枚貸してもらえないかな?街で鑑定してみたいな。何の素材か全く解らないわ」
エルフさんが布を手にする。
「すみません……大事なもの……かもしれないので……」
「そう、じゃ、もし街に来る事があったら冒険者ギルドに来て鑑定の紹介するから。私の名前はデルよ」
「出るとこ出てないのに『デル』って名前だよ、これで一発で名前覚えたでしょ」
うん、一発で覚えた。エルフのデルさんだね。
「何、喧嘩売ってるのルル!」
エルフのデルさんが飛びかかり、魔法使いとその場で取っ組み合いを始めた。手慣れたように赤毛さんと神官戦士さんが場所を空ける。やっぱり冒険者って野蛮人なんだな、あまり関わらないようにしよう。
しばらくして、争いは収まり、赤毛戦士さんが迷惑料を払って店を出て行った。