海のお約束
「ねぇ、ザップー」
マイが水中から顔を出す。
「そろそろ少しづつみんな集まって来ると思うから戻ろー」
僕は浮き輪に入ってばちゃばちゃしながら海を楽しんでいる。そう言えば遠くに来たもんだ。ビーチが遥か遠くに見える。
「みんなって誰だ？」
「みんなはみんなよ」
ん、アンとマイとジブルしか来ないはずだが？
「どうやって呼んだんだ？」
「メールを一斉送信したわ。みんなリナちゃんに頼んでどうにかしてやって来るみたい」
あ、そうか、リナに頼んでここにポータルを繋いでもらったから、それを利用したらすぐに来られるか。けど、金額やばめだぞ。
「じゃ、戻るわよ」
近づいて来たマイが僕の手を引いて泳ぎ始める。水の中で繋いだ手が暖かい。けど、速いな。見るとマイは優しく水を蹴ってるようにしか見えないのに、ぐいぐい進んでいく。
「なんでそんなに速いんだ？」
「ん、泳ぐの？ コツ、コツよ」
コツって凄ぇな。
「コツってなんなんだ？」
「んー、蹴る時に一番水の抵抗を感じた時にグワーって力入れるだけよ」
んー、抵抗を感じた時にグワー。感覚的でピンと来ないな。まあけどやってみるか。足を縮めグワーっと全力で蹴る。
ジャボン！
あ、飛んだ。角度が悪かったのか、マイと手を繋いだまま水面から踊り出る。
「ちょっと、ザップー」
マイが非難の声を上げるけど、それよりも浮き輪から出てしまった。僕はポータルを足場に出して、なんとか水上に立つ。マイは僕にぶら下がってる。咄嗟に目を逸らす。マイの水着のブラジャーがかなり下がっていて、あと少しで先まで見えそうだった。チューブトップ万歳！
「ちょっとー。相変わらず加減無しね。あたしが引っ張って行くから浅瀬で泳ぐ練習しましょ。それまではザップは大人しくしてて」
んー、ただ引っ張られて行くのって、傍から見たら情けないな。
「このまま走って戻ろう」
「えっ？」
僕は浮き輪をポータルを飛ばして収納すると、足元にもポータルを使って走り始める。手は繋いだままだ。マイも同じ事は出来るけど僕ほど熟練してないからな。けど、よく考えたら僕たちって今２人っきりだよな。もしかしたらチャンス？ いや、そんなはずは無い。こういう時は必ず誰かそばに要る。
「ちょっとー、ザップー、止まって」
「どうしたんだ」
僕は全速力。髪はビシッと風で頭に貼り付いてマイもたなびいてる。日差しの中、濡れたら体がみるみる乾くのがヒンヤリしてて気持ちいい。
「水着がずれてるのよ！」
あっ、気付いたのか？ 残念。
「そうだな。上がちょっとズレてたな。けど、大丈夫だろ」
イタズラ心が顔を出し、僕は更に加速する。
「ちょっとー、ザップの意地悪。止まって止まって、あっ」
なんか、悲しそうなマイの声。卜半急停止する。マイを見るが残念な事にブラジャーはついたままだ。
「どうした？ マイ」
「とれた……」
「えっ？ 何も取れてないじゃないか？」
「下……」
マイのもう片方の手はお股に挟まれてる。とっさにそっぽを向く。ヤバい。ヤバすぎるぞ。
「どうすればいい？」
「降ろして……」
いかん、こりゃ怒ってる。悪ノリし過ぎた……
「離していいか？」
マイは収納から水着を出して装着する荷物持ち流早着替えをする気だと思うが、これの難点は動いていたら出来ないとこだ。座標がずれたらスカって服が落ちる。
「いいわよ」
多分、マイはポータルを足場に立ってるはず。
「みーちゃったー、みーちゃったー」
む、アンの声。
「ご主人様とマイ姉様、こんなとこで何してるんですかねー。おやぁ、マイ姉様。パンツ穿いてないですね」
つい見ると、アンがマイの足元から首だけ出している。
「違うのよ、アンちゃん」
マイは水着を装着してアンに手を伸ばす。
ちゃぽん。
アンは海中に消える。
「まずいな。あいつ、捕まえて締め上げるか、食いもんで買収しないと、あること無い事言いふらすぞ。マイ、追っかけるぞ」
「分かったわ！」
マイは海の中に消える。なんとかさっきのアクシデントを誤魔化せたな。けど、アンを追っかけるにしても、僕には浮き輪にはいって水面でバチャバチャする事しか出来ないぞ。
