海の女王 4
「おいおい、完成品があるならそれを渡せよな」
僕はシルメイスから布きれを受け取る。つい頬が緩む。なにせこの僕が泳げるようになるのだ。そりゃ期待してしまう。
「なんだこりゃ?」
なんか水着からノズルのようなものが伸びている。それをつまんで持ち上げる。ぞうさん? 俗に言う象だ西方語で言うとエレファント。あのでっかくて鼻が長い生き物だ。それが可愛くあしらわれたものが布きれについている。伸ばしてみれば、その位置は股間にあたる場所だ。ブリーフ。僕が嫌いなブリーフだ。
「こんなん穿けるかボケッ!」
反射的にブツをなげ捨てる。意外に素早い動きでシルメイスが水に落ちる前にキャッチする。もしかしてこれも爆発するのか?
「まって、ザップ。これを捨てるなんてとんでも無いわ」
「じゃ、そんなとんでも無くしょうが無いものつくるなよ。今日び、そんな恥ずかしい水着、生きが良いガキでも穿かんぞ」
どうでもいいが、時代が変わったのか、最近頭悪そうなガキを見ないな。丸坊主で棒に虫とか汚いもの刺して持ってるような奴だ。そういうガキなら喜んでこういう水着を穿くと思う。
「フッ。多分説明を聞いたらザップなら穿くわ。いえ、むしろ穿かせてくださいって私に頼みこむはずよ」
「ほう、自信満々だな。そんな下品な宴会芸にも使えないような水着を俺が穿く訳ねーだろ」
「じゃ、説明するわ。前の試作品は『水操作』という私の権能を使うためにマナを詰め込み過ぎたのが問題だったわ」
そんな事より爆発するのが問題だと思うが。
「だから、操作する水の量を制限する事と、魔道都市の精神感応操作システムと北の魔国に伝わる時空を操る古代魔法を利用する事で満足いくものが出来たわ」
何言ってるのか訳分からんな。
「ほう、じゃ、それって魔道具なのか」
「そうよ。もしこれを売りに出すなら大きな家一軒買えるくらいの値がつくと思うわ。この水着でザップが泳げるようになって喜ぶ顔を見るためだけに、私たちは魔道の深奥をこれに詰め込んだのよ。採算は度外視よ」
「能書きがなげーな。で、それを穿くとどうなるのか?」
話から推測するに、これに詰め込まれたのは魔道都市の導師ジブルと、北の魔国アシュガルドの魔王リナの悪意って事か。あいつらが悪ノリして作ったのだろう。なんかどういう魔道具なのかだいたい想像がつく。マイなんて、いつの間にか居なくなってる。しょうもない品も無い話は嫌いだからな。
「この水着を穿くとー」
シルメイスは大きく息を吸う。溜めるな。とっとと言えよ。




