海の男
「これなら多分大丈夫なはず」
マイが次に出したのはめっちゃ大っきい浮き輪。海から首と右手を出して、右手一本で浮き輪を掴んでいる。マイが握ってる所はひしゃげてるけど、大丈夫か? 空気抜けたりしないのか? 頑丈そうだな。素材は何なのか気になる。
それは置いといて、今度のは穴も大っきいから、下から難なくくぐれそうだ。けど、また柄は赤と白のストライプ。なんかこだわりがあるのか? 確かに派手なのは嫌いじゃないけど、やっぱ遭難者用みたいだよな。
潜って、浮き輪に入る。やっぱりどうしても水中からマイを見てしまう。うん、綺麗な足だ。あと、下から見ると胸が大っきく見える。チューブトップで押さえてるのに。見とれる事、須臾、即座に両手から浮き輪を潜る。そして脇に挟むように浮き輪を装備する。マイと目が合う。緊張の一瞬だ。僕はついてる足を離す。がんばってくれ、浮き輪!
おお!
浮いている!
力の代償として失ったもの。それは浮力。僕は今、浮き輪という文明の利器により、失った浮力を取り戻す事に成功した。
「やったわね。ザップ」
ぺちぺちぺち。
マイが湿った拍手をしてくれる。さっきまでは首しか出して無かったのに、今は腰まで水面から出ている。そうか、立ち泳ぎというやつだな。どれだけ高速で足を動かしてるんだろうか? 見てみたい誘惑に駆られる。そうだ、マイに出来るなら僕も極めれば同じ事も出来るはず。
「ああ、浮いている。この感触久しぶりだな。これで俺も立派な海の男だな」
波が打ち寄せる度に僕の体が上下する。
「ああ、いいな。けどさ、海でプカプカしてても酔わないのに、これって船に乗ってたら気持ち悪くなったりするよな。この差って何なのかなー」
「んんー、波に浮いてても『波酔い』って言って気分悪くなる人もいるそうよ」
「今日のランチは、小、並み、大、どれにする? って聞いたらし、『並、並良い』ってピオンなら言いそうだな」
「そうね、あたしもランチは『並良い』ねー。まあ、それは置いといて、こんな感じで船酔い、波酔いの事を考えなかったら酔いにくいらしいわ。あと、乗り物酔い全般だけど、遠くを見ると良いらしいわ」
やっぱマイはいい。面白く無くても1回はのってくれる事が多い。うちの隣の店のメイド軍団は面白くなかったら、罵倒してくる奴多いからな。心がポッキリ折れそうになる。
シュババババババババッ!
水飛沫を上げながら、何かがこっちに突っ込んで来る。角が生えた頭、アンだ。相変わらずドラゴンすげーな。バタ足だけであんなに推進力出せるなんて。
「ご主人様ー。遭難者みたいですよー」
あやつは突っ込んで来て、方向転換しながら背泳ぎにチェンジし、僕をディスっていく。アンの波に攫われて、浮き輪がひっくり返りそうになる。生意気な。くらえ!
「ほう、そうなんだー」
下らない駄洒落攻撃。あいつのツボは分かんないけど、もし刺さったらたらふく海水を飲むはずだ。
「ご主人様、相変わらず面白く無いですよー」
少し離れてアンが挑発してくる。面白い。今日の僕は浮いてる。という事はアンを追っかける事も出来る。お仕置きだ!
シュババババババババッ!
おお、良い感じだ。遮二無二足をばたつかせるだけでかなりの推進力だ。待ってろ! アン!
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