浮き輪
「すまん、間違えた。もう大丈夫だ」
僕はマイ達に背中を向け収納衣裳チェンジで即座に水着を着用する。その前にもう1回間違えてパンツを出しちまったのはご愛嬌だ。トランクスタイプの水着とパンツって見た目一緒だし、水着って夏くらいにしか着ないから収納のどこにしまったか分かんなくなるんだよね。このトランクスには紐がついてるので、しっかり結んで脱げないようにする。危ない危ない、これ忘れるとまた全裸になるとこだった。
まずは海の奥まで進んでいく。水に入るのは嫌いじゃないけど、僕は泳げない。多分、筋肉がめっちゃ重いからなんじゃないかと思う。多分、『剛力スキル』の副作用だろう。僕はそこまで太って無いと思ってるけど、体重思わもんな。水に飛び込むと沈む。けど、川と違って海は若干ゆっくり沈むから楽だ。だから水中呼吸の魔法を使って貰わない限り、足がついて首が水から出る所までしか行かない。まあ、言い訳するなら、王国には海なんて無かったからね。子供の頃から山ばっかで生活してたし。
波に攫われる感じが気持ちいい。この浮遊感、安心する。
「ねぇ、ザップ、何してるの?」
マイは僕と違ってプカプカ浮いている。マイもかなりの『剛力スキル』のホルダーのはずだけど、普通に浮けるようだな。やっぱり、男と女では浮力に差が出るのか? こんどTSスキルで変身して海で検証してみよう。
「海を楽しんでる」
「なんか、スパでお湯に浸かってるお爺ちゃんみたいよ。こういうのって、確か、『じじむさい』って言うのよね」
「じじむさくて結構だよ。うん、多分、俺は今、爺さんたちと同じ気持ちだと思う。癒されるー、浸みるー。戦いで火照った体が癒されていくよ」
「そうね。今日結構激しく動いたけど、なんか疲れ吹っ飛んじゃったわね。けど、せっかくだから泳ごうよ。ほら」
マイが収納から出したのは浮き輪。赤と白のストライプだ。これって救命用のやつみたいだな。と言う事はマイも近々海に行こうって計画してたのかも。しかも浮き輪を準備してると言う事は僕と一緒に。
「ありがとう」
僕は浮き輪に下から入ろうと、水に潜る。目の前にマイが浮いている。あ、胸も浮いている。天然の浮き輪になってるのかな。なんか、水面の反射で首が見えないのって、やらしいな。もっと見ときたいけど、浮き輪にインする。あっ、頭しか入らない。
「ザップ、ちょっと使い方違うと思う」
まあ、浮き輪使う事なんて滅多に無いから誤算だった。僕は浮き輪を首から外し、沈める。
「あっ、何でも無い」
マイが何か言いかける。気にせず潜ってしゃがんで浮き輪に足を入れて腰にセットする。
「なんかゴメン」
マイが僕から目を逸らす。浮き輪を腰につけても僕は全く浮いてない。うん、浮き輪を沈められる時点で、分かる事だったね……




