姫と筋肉 討伐依頼 1
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ!」
僕は目の前でガクガク動いている物体を見る。焼けたような肌のタンクトップの巨漢が一心不乱にめたくそ汗をかきながら腕立て伏せをしている。
奴の名前はレリーフ。2メートルを超える巨躯に過積載の筋肉。見た目は魔人とか、オーガにしか見えないがれっきとした人間だ。尖った耳で自称ダークエルフらしいけど、誰も信じない。それが街道の脇で奇声を上げている。ちなみにケイトとスザンナと言うのは奴の大胸筋の名前で、『筋肉は名前をつけて愛でると、より期待に応えてくれる。人間は裏切るけど、筋肉は裏切らない』。これは奴の口癖だ。なんか納得出来るような出来ないような微妙な言葉だ。奴はお尻の筋肉には僕の名前をつけてやがる。けど、それを呼ぶたびにドついてやっている。
僕の名前はラパン・グロー。冒険者だ。元々は都市国家群の魔道都市アウフの第一位王位継承者、俗に言うお姫様だったけど、王位をいとこの兄ちゃんに押し付けて気ままに生きている。
昔は目と足を怪我していて、宮殿に籠もっていたけど、やって来た『最強の荷物持ち』ザップ・グッドフェローに癒して貰って旅に出た。その時に色々あってザップの記憶と力を譲り受けて、『2代目最強の荷物持ち』と呼ばれている。まあ、最近まで『3代目最強の荷物持ち』に振り回されてたけど、それもなんとか解決した。
そして、久しぶりに王都の冒険者ギルドでソロの依頼を受けてゆっくり冒険を楽しもうと思って歩いてる街道で奴に出会ってしまった。何故か知らないけど、1人の時はよくレリーフと会う。呪われてるんじゃないだろうか?
んー、レリーフが悠々と筋トレしてるのも平和の証。平和っていいなー。まあ、有事の際にもレリーフはいつでも筋トレしてたな……
「おい、レリーフ。人の通行の邪魔だけはするなよ。お前を轢いたら馬や馬車は酷い事になるからな」
僕は横を通り過ぎながら声をかける。奴は今はたまたま木陰が道の脇だから街道から外れてるが、普段は筋トレする場所を選ばない。声をかけたくはないけど、奴が街道に出て馬車とかに轢かれたら目も当てられない。馬車が。馬に轢かれたら目も当てられない。馬が。決して奴の心配してる訳じゃない。
「ああ分かった」
そう言うと、奴はまた筋トレ始める。
「…………」
ん、絡んで来ないな。振り返ると、奴は相変わらず腕立て伏せしている。そして止めてゴロンと横になるとウネウネ自分の身体中をまさぐり始めた。もしかしていつもいつも飲んでる『ミドルヒーリングポーション』が見つからないのか? 世話が焼ける奴だ。
「ほら、口開けろ」
僕は戻り、寝っ転がってるレリーフに収納からエリクサーを出してぶっかけてやる。それをレリーフは寝たまま口を開けて飲む。
「ラパン。助かった。ポーションきらしてたようだ」
コイツは筋トレからポーション、筋トレからポーションで回復サイクルを早める事でこの超筋肉を保っている。これってドーピングなんじゃないか?




