地下50層での戦闘
「ガハッ!」
僕は血を吐き出す。体にエリクサーをかけ続け、何とか意識を保つ。
貫いた石の槍を収納にしまおうとするが、入れられない。嫌な考えが頭をよぎる……
僕の収納にしまえないのは生物。
もしかして、この槍は生き物?
魔法生物のゴーレムなのか?
調べる術もないので、ハンマーをしまって両手でどうにかして槍を砕こうとするが串刺しで体勢が悪く力が出ない。
目の前の巨大なドラゴンの姿がぼやけ黒い霧になり集まって人の形をなす。
骸骨を模した鎧にマントを羽織り、動物の頭骨を頭に戴いた人物。
アカエル大公だ。
「どんなに強い歴戦の勇士も、攻撃する瞬間は無防備だ。その時は体を纏う鋼の様な筋肉でさえ、ただの水袋と化す。搦め手を使わずとも勝負にはなったと思うが、私は運否天賦では戦わないのだよ。完全に勝てる環境を作ってからしか勝負はしない」
薄暗い大部屋に大公の抑揚の無い低い声が響く。
「ザーーップ!」
「ご主人様!」
「マッドスワンプ」
マイとアンが叫び駆け寄ってくるが、大公の魔法が床の、材質を変える。彼女らの足が膝くらいまで泥濘んだ大地に飲み込まれるのが見える。
「王家の爆炎、守護家の暴風に比べたら、私の大地の力は軽視されがちだが、なかなかのものだろう。炎は消え、風は止むものだが大地はあり続けるものなのだよ」
大公は身じろぎもせず、言葉を紡ぐ。前に会った時とは別人のようだ。
「大公、もしかして禁忌を……」
ジブルの声が聞こえる。いかん、気が遠くなり始めた。
「導師ジブル、私の望みのためには禁じられるものなど存在しないのだよ」
大公は指を差しだす。
「カースオブストーン」
その指から放たれた光の筋がマイ達に襲いかかる。ジブルの前に出来た障壁みたいなのが、光を弾くが、先行していたマイとアンを貫く。
「キャア!」
「アアッ!」
2人は光が当たった所を起点に、体が色を失い、あとには2体の石像が残った。
「マーイ!アーン!」
僕は声の限り叫んだ。口から血が噴き出す。
「油虫のようにしぶとい奴だな、お前も石になれ」
大公の手から出た光が僕の胸に命中する。
「ジブル逃げろ!」
僕は叫ぶ。まずい!
ジブルは、ためらってるのか動きが止まる。
「ザップ!ア・ウルラ・デル・マニカ!」
ラファが何かを叫ぶ。最後らへんは何を言っているのか聞き取れない。
一瞬にして、石化が僕の頭にも進み、最後に目にしたのは、煌々と赤く光る目のラファの顔だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一瞬気を失っていたのだろうか?目の前には石化したマイとアンがいる。僕は咄嗟に駆け出し射程に入れて2人を収納に入れる。良かった石化した者は収納に入れれるんだ。
「やはり魔法ではそう簡単に導師を倒せんか……やむを得まい。私の真の力を見よ」
アカエル大公の体が弾ける。再び巨大なダークドラゴンが現れた。
「ゴオオオオオオオオッ」
口を開き漆黒のブレスが僕達に襲いかかる。避けられない。
「アアアアアーッ!」
僕の全身に痛みがはしる。身に纏っているものがすべて燃える尽きる。エリクサーをかけ続ける事で何とか命を拾っているが、このままだと千日手だ。
僕の腕を何者かが大きく引っ張る。見るとジブルだ。全身から白煙を上げている。
「退却します」
ジブルのもう片方向の手はミケと繋いでいる。ミケはもう片方の手に妖精を握っている。
ラファがいない!
「まて、ラファが!」
「レスキュー!」
ジブルは僕の言う事が聞こえていないのか、魔法を発動した。
辺りの景色が歪み、視界に光が溢れる。
地下50層で僕が最後にみたのは巨大なドラゴンの横にそそり立つ岩の槍で、その上には石化した人物とみられる影……
次の瞬間には、僕達は朝みた景色、タワーのロビーにいた……