限定迷宮 30
「かかってこい。このウスノロやろー」
アンは右手でこいこいする。なんかたまにこいつの言葉に死語的な時代的なものを感じるんだよな。まあ、長生きしてるもんな。ロリババアってヤツだよな。
ゴーレムはアンの方を向くとドタドタ走り出す。思ったより結構早いけど、普通の大人がダッシュするより遅い。ずっと追っかけっこするならヤバいかもしれないけど、僕ら4人いるから、上手く交代するなら問題ないだろう。逃げるアン、追っかけるゴーレム。水場から奴らは離れていき、マイとピオンは落ちてる服を払って着る。少し残念。
そして、誰かが囮になってゴーレムとかけっこしながら、リポップしたスライムを狩り続ける。誰がしか同じ様な事を考えた人も居るかもしれないけど、実現するにはハードルが高すぎるだろう。地下一層でモンスターハウスを生き延びる事。それだけで、大抵の人は安堵して帰るなり下に降りるなりする事だろう。
それに相手がゴーレムだったのもラッキーだ。もし他のもっと素早い魔物だったらこうも上手く行かなかっただろう。
けど、ここはまだ通過点。超難易度の迷宮をクリアするためには正常な思考じゃ駄目だ。普通にやったら普通にやられるだけだ。異常。異常な迷宮には異常な思考。僕たちはひたすらひたすら、たまには休憩しながらスライムを狩っていく。どうもゴーレムクラスの魔物は一体しか湧かないみたいだ。お腹が空いたら鍋とアンのブレスでスライム汁を沸かして酸味をとばして飲む。水溶き片栗粉飲んでるみたいだ。そして疲れたらスライムを倒す者、ゴーレムとマラソンする者、見張りに分かれて後の一人は寝る。一日で迷宮は形が変わると言われていたけど、フロアに誰かが居たらそうじゃないみたいだ。途中で迷宮の形が変わったら地下二層に逃げ込もうと思っていたけど、杞憂だった。あと、他の冒険者も入って来ない。一日居れば誰かと鉢合わせるかもと思ったけど、それも規制されてるようだ。
2人は常に浮くから空いた時間は雑談かトレーニング。なんか昔、太古の迷宮に居た時の事を思い出すな。あの頃は3人だったけど、今回はピオンも居る。一日、二日、三日。ゴーレムとマラソンしてスライムを狩り続ける。
そして、待ちに待った瞬間が訪れる。何匹狩ったか分からないスライムに棍棒を叩き付ける。
『ザップはレベル20になりました。収納スキルを覚えました。クラスが村人から荷物持ちにチェンジしました』
この腐れダンジョン。よくも僕らを何回も殺しやがったな。ここからは僕のターンだ。




