限定迷宮 18
「俺が引きつける。お前らはスライム汁をもって上手くすり抜けろ」
僕はゴーレム向かって駆け出す。僕が相手どってる間になんとかみんなには逃げて貰おう。自慢では無いが、ヘイトを稼ぐのは得意だ。何故か僕は昔から犬には吠えられるし赤子には泣かれる体質だ。なんか変なものでも憑いてるのか? 僕はゴーレムから目を離さずその前に立つ。奴の間合いの外だ。武器は持ってないな。コイツは動きは鈍い。避けるだけなら問題無いだろう。けど、横をすり抜けるのは難儀だな。デカ過ぎて隙間が無い。後ろをチラリ見ると、みんなずだ袋を持ってる。邪魔そうだな。けど、上手く引きつけたらなんとかなるだろ。ゴーレム鈍重そうだしな。
ゴゴゴゴゴゴッ!
ゴーレムが体を軋ませながら両腕を振り上げる。あ、コイツ、バカだ。両腕振り下ろしたら隙が大きすぎだろ。もしかしたらコイツ、威嚇用なのか。
こっちに両腕を振り上げながら近づくゴーレム。でっけぇなー。間合いに入り腕を振り下ろしてくるけど、少し下がるだけで安全だ。奴は手が短いから届かないよ。全身を前に倒し、間合いを稼ぎながら突進してくるゴーレム。それを更に下がって距離をとる。
ドッゴーーーーン!
倒れ込むように体ごと地面を叩くゴーレム。岩で出来た床が爆ぜる。当然かわしてるのでノーダメ。今がチャンスだ。
「乗り越えろ!」
まあ、僕に言われるまでもなく、ピオン、マイがゴーレムの上を越えていく。そして、アン。
ズデン!
あ、派手にこけやがった。アイツ、ずだ袋2つももってやがる。ゴーレムの上にスライム汁ぶちまけてる。ゴーレムはゆっくり立ち上がろうとする。よしっ、転がりながらアンも向こう側に行った。あ、僕も急いで行かないと。ゴーレムの横をすり抜ける。
ズルッ!
クソドラゴン! あいつがぶちまけたスライム汁で派手に滑っちまった。
ゴゴッ!
僕を覆う影。ゲッ、ゴーレムが倒れ込んで来た。ゴーレムも汁で滑ってやがる。
「うっぎゃーーーーっ」
ついつい声が出る。痛いわ! 重いわ!
『ザップ・グッドフェローの死亡を確認しました。転倒したロックゴーレムに潰されて死亡』
無機質な声がする。ん、なんか死亡原因までアナウンスされてる。変わったのか? またやっちまった。起き上がり見上げると女神像。その慈愛に満ちた笑みですら少しムカつく。
『アンの死亡を確認しました。ゴーレムに殴られて死亡』
女神像から無機質な声が聞こえる。僕の隣に光が集まってアンになる。
「私はちゃんと立ち向かって死にましたよ」
「お前が汁ぶちまけたからだろ」
「ご主人様、元々は英雄なんて言われてたじゃないですか。英雄なんですからあれくらいなんとかしてくださいよ」
「お前だって、コケて足挫いて逃げられなかったんだろ。五十歩百歩だろ」
「何いってるんですか? 潰されたと殴られた全くちがうじゃないですか?」
僕とアンはしばらく不毛な口争いをし続けた。




