アカエル大公
「ほう、なかなかやるようだな、お前達」
アカエル大公は髪を掻き上げると。僕の方を見つめる。髪を掻き上げるように見せて額の汗を拭ったのを僕は見逃さなかった。
「ではせいぜい我らのためにエリクサーを見つけるのだな。行くぞ」
大公はマントを翻すと、黒鎧たちを引き連れて去って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう、いなくなったわね。何なのあれ、ぶっ倒した方が良かったんじゃない?」
マイが構えを解いて僕の方に駆け寄ってくる。
「いいえ、これで良かったと思うわ。大公はこの街の魔術師協会、要するに、タワーのトップよ。やり返したら、私達が犯罪者になるわよ」
ジブルが立ち上がって近づいてくる。
僕はとりあえずそばの丁度いい岩に腰掛ける。少し話を聞いた方が良さそうだな。
「ですけど、先に手を出したのはあっちですよ」
アンは不満そうだ。やり返したかったのだろう。
「いや、訓練だとか何とか言われたら、大公の言うことが正しくなるわ。それにあたしたちの上司にあたるから、冒険者ギルドも内輪もめには口を挟まないわ」
騎士ミケもそばの岩に腰掛ける。
「それで、いったいあいつは何者なの?変な骨なんか被って。あと少しで、あたしぺちゃんこになるところだったじゃないの!」
妖精はおこだ。プンプンしている。
「だから、大公だって」
ミケが答える。
「大公って何よ」
「王族の領地持ちの貴族です。魔術師協会の会長で、あたしの従兄弟です」
「魔道都市アウフの第二位王位継承者、ラファ様の足が治らなかったら、王になるはずだった方よ」
ラファにジブルが補足する。
「え、じゃあ、ラファの命を狙ってるんじゃないか?」
「ザップ、アカ兄様の事を変に言わないで、確かに服の趣味はジブル並みに変かもしれないけど、迷宮都市でエリクサーを見つけようと言いだしたのは、兄様なのよ。それに、自分の足でも探してくれてる」
ジブルが憮然としている。服装の自覚ないのか?
「それに、大公にラファの事ばれたんじゃないか?」
「多分気付いてないよ……最後に会ったの5年前だから」
僕にラファが答える。少し寂しそうだ。
「まあ、次に会わない事を祈るよ。けど、タイミング良すぎないか?」
「これよ」
ジブルが右手を突き出す。そこには指輪、レスキューの指輪だ。
「この魔道具で私達の位置はいつでも協会からは解るわ」
「捨てよう!」
ジブルの指輪を取ろうとするが、全力で抵抗される。
「ザップ、ジブルを虐めないの!」
マイに仲裁された。
けど、ここから方針を変えた方が良さそうだ。ラファはそう言うが、僕は大公を信用できない。
今はドラゴン騒ぎで地上は混乱してると思うから、しばらく迷宮に潜るだけ潜って、エリクサーを見つけた振りしてとっとと魔道都市に向かう事にしよう。
「マイ、ジブルから地図を受け取れ、これからは最速攻略だ!」
『大公から離れたいしな……』
僕は心の中で付け加えた。