限定迷宮 12
「よし、じゃあ、最終チェック。貴重品は預けたか? トイレは済ませたか? 体調悪い者は居ないか?」
「「はい!」」
地獄の門の前で、最終チェックをする。門の前には数組のパーティーが並んでいて、次々に迷宮に足を踏み入れていく。みんな私服なので、なんか食べ物屋の行列とかみたいだ。昨日の夜、ピオンがさらに情報を集めて来てて、昨日は入るのが遅かったから問題無かったが、門に弾かれた装備を専門に狙うコソ泥もいるから、迷宮に弾かれるものは預けるのは鉄則だそうだ。あと、迷宮に入る時は左側通行という事だ。ごくまれに入った瞬間襲われる事があるから、右利きの人が多いからすぐに対応出来るようにだそうだ。門をくぐってしばらくすると、入った人が見えなくなる。そして次のパーティーが入る。これを繰り返していく。1パーティー毎に中身が切り替わるそうだ。迷宮の中は完全ランダムで、地下一層は16種類、二層は8種類、三層は4種類、四層は2種類で、五層からは1つになるそうだ。だから、浅い層では他の冒険者に鉢合わせる事は少ないそうだ。
やっと僕らの番がくる。
「私から行くぞ」
ピオンが前に出る。長袖長ズボン、昨日の下着姿とは大違いだ。『また、弾かれろ!』、心の叫びは届かず、無事ピオンは迷宮入りする。そして、僕、アン、マイも入る。ちらりと振り返るが、マイも無事だ。けど、何故かマイはジト目だ。
天然っぽい洞窟を進む。前には誰も居ない。
「とにかく逃げて逃げて逃げまくるのよ」
後ろからマイが小声で言う。
「分かった。けど、しんがりは俺がやる」
これは入る前に示し合わせた事だけど、武器になるものを手に入れるまではとにかく逃げまくる。そして、武器を手に入れたら慎重に少数のスライムを倒しまくる。昨日ピオンが持ってたずだ袋はスライムを倒したらドロップしたそうだ。そして、スライムを袋に入れて売る。今日の目的はまずは慣れる事。そしてあわよくば一日の収支をプラスにする事。
ぴちょん。
開けて小部屋に出る。今回は通路は直進と右。奥にはスライム一匹。跳ねたあとズリズリこちらに向かってる。
「右に行く」
ピオンは右の通路に向かう。アン、マイもついていき、僕はマイの後ろを走る。んー、やっぱみんな鈍くさい。前まで見慣れた彼女たちと違う。一般ピープルだ。
近づいてくるスライム。瞬きせずに凝視する。スライム如きにこんなに緊張するとは……
おっと、スライムが跳んだ。そうか奴ら全身筋肉のようなものなんだな。けど、それは下策。跳んだら着地する。その着地地点に足を置くように蹴る。ダメージは求めない。スライムに吹っ飛んで貰って距離を稼ぐだけだ。
ぽよん!
僕の抜山の蹴りは、スライムをただ弾いただけ。けど、放物線を描いて跳ぶスライムから攻撃は絶対にされない。僕はそそくさと右の通路に駆け込む。そして、ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ。
すぐにみんなに追い着く。よし、スライムは追っかけて来てない。




