限定迷宮 10
「ザップ下がって!」
マイの声に従い、バックステップでスライムと距離を取る。まじかスライムって実はこんなに厄介だったのか。
「ていっ!」
近づいて来たマイがスライムを蹴る。足の甲と脛を使って広く当てて掬い上げ、スライムは飛んでいく。
「私たちの今の力じゃスライムを倒せない。何か武器が無いと、スライムは打撃に強い」
ピオンの声が後ろからする。
「ザップ、逃げるわよ。右、右に行くわ」
「ああ」
僕らは右の道に逃げ込む。しばらく走り、振り返るとスライムは追っかけてこない。
「おいおい、なんだありゃ。強すぎねーか?」
僕らは誰から言いだす事無く道に座り込む。これだけで息が上がるなんてスタミナも無いな。
「違う。あれ、普通のスライム。今までの私たちが強すぎただけ。一般人からしたらスライムはあんなもの」
「それよりも、アンちゃん、大丈夫かなー」
「大丈夫ではないが、死んだら入口に戻るって言ってたからな。信じるしか無いな。まあけど、死にたいとは思わないがな」
ピチョン。
水滴が落ちるのをもっと大きくしたような音が来た道からする。
ピチョン。ピチョン。
前方からも音がする。ここは通路。少し狭く人2人が行き違うには体が触れそうな幅だ。しくった。
「挟まれた」
ピオンの声に呼応するかのように。目の前に2体のスライム。
「ああ」
「戦う?」
マイが問いかける。
「逃げるぞ」
逃げるのは前だ。多分、迷宮に何らかの武器があるはずだ。戻ってさっきの別れ道を逆に行くよりも、前の2体をすり抜けて奥に行く方が何かを見つける公算が高いと思う。スライムはこっちに向かってくる。しめた。スライムは急に方向転換できない。かろうじて2体の間をすり抜ける。ん、なんか目の前に跳んでる? ゲッ、スライム3体目! 避けようとするが、体が思うように動かなくて頭からスライムに突っ込む。熱い、頭、顔、全体が熱い。うお、口にヌルヌルしたものが潜り込んでくる。手を伸ばすがヌルヌルしてて掴めない。
『ザップ・グッドフェローの死亡を確認しました』
頭に響く無機質な声。その次には明るい所にいた。走ってた僕は目の前の岩にぶつかる。頭をしこたま打ち付けた。なんだこりゃ?
「ご主人様、女神像に八つ当たりしてるんですか?」
頭を押さえる隣で声がする。アンだ。
「俺は死んだのか?」
「私も死にました。私は次に来るのはご主人様だと信じてました」
嫌な信頼だな。たしかにその通りになったけど。
「けど、良かった。死んだらここに戻るんだな。まあ、滅茶苦茶なダンジョンだからこれくらい無いと攻略無理だもんな」
けど、二度と御免だな。まじ苦しかった。




