竜王宮 2
「それで、その無くなったはずの竜王宮にここはそっくりなのか?」
僕はアンに問いかける。
「はい。細かいとこまで全て一緒です。けど、本物はノルンの丘って所にあったんですけどね」
アンは壁の柱を撫でている。
「で、なんでそれがここにあるんだ?」
「多分、昔を偲んでるんでしょうね。私もなんかここに居るだけで、安心します。みんなで仲良く楽しく暮らせていた日々を思い出せますね」
なんかアンじゃないみたいだ。いつも食べ物の事しか話さないのに。
「けど、あの頃は、激しくメシマズでしたね。生肉や生野菜や生魚しか食べてなかったです。みんなものぐさですから、腹に入ったら一緒という事で調理してなかったですね。そもそもドラゴンの手って料理出来るように出来てないですし、私たちが食べる量ってハンパ無いじゃないですか、超大量調理になりますからね。たまには焼いてましたけど、焼くと疲れるですからね」
やっぱアンだ。いつになくめっちゃ早口だ。んー、生肉、生野菜はまだマシだとして、生魚はちょっとなー。新鮮ならまだいいけど、ちょっと時間経った魚の生は嫌だな。ドラゴンに生まれなくて良かった。
「そろそろ、奥に進もうか。魔物の気配も罠もなさそうだ」
ピオンに促され僕らは建物の奥に行く。部屋の中央には岩で出来た円卓があり、それを囲むように石の椅子がある。あ。これも床から生えてる。岩をくり抜いたんだな。けど、動かせない椅子って不便だよな。
奥には1枚の両開きの扉があり、その横には文字が描いてある金属のプレートがうち込まれている。そのプレートの前には僕らの腰くらいの高さの四角柱がある。上は軽く斜めになっていて、手のひらをのっけたら少し余るくらいの大きさだ。これも床から生えている。
「ここではよく会議してたんですけど、こんな扉は無かったです」
アンは扉に近づきプレートを見る。金属で僕らのタブレットの倍くらいの大きさで、やたらギラギラしている。2枚上下に並んでいる。
「上は古代文字、下は現代の文字ですね。古代文字は忘れかけてて少ししか読めないですけど、どうやら上も下も同じ事描いてあるみたいですね」
「じゃ、あたしが朗読しようか? これから先に進む者……」
「まて、マイ」
マイをピオンが止める。
「魔法罠には、声がキーワードになってるものとかもある。それに、古代文字を訳してるって事は、それを共通語に変えたものを読むだけで、古代魔法が不完全に発動する事もあるらしい。みんな声を出さずに読め」
なんだそりゃ。そんな事もあるのか。さすがピオン、罠系のスペシャリストだ。




