竜王宮
プリンから戻ったピオンを先頭に僕らは穴を下っていく。いつもの見慣れた黒装束だ。ピオンは左手に松明を持ち、右手を前に開いて突き出して歩いて行く。地面はごつごつしてて、足元は微妙に湿気っていて気をつけないと滑って躓きそうだ。床も含め四方は岩だ。自然に出来た洞窟にも見えるけど、不自然なのはまるで測ったかのように、真っ直ぐ緩やかな勾配で下っていってる。
「微妙に空気が流れてる。生き物の気配はしない」
ピオンは立ち止まる。右手は空気の流れを感じてたのだろう。おもむろにピオンは右手を握り振りかぶる。
コツン、コン、コン、コン。
どうやら収納から何か出して投げたみたいだ。
「ずっと、100メートル以上は真っ直ぐ。火も燃えてるから空気はある。スタンピードにしてはおかしい。魔物が居ない」
ピオンが饒舌だ。まだプリンさんを引きずってるのかもしれない。けど、さっきまでうじゃうじゃいたスライムはなんだったんだろうか? ただの嫌がらせだったのか?
「スタンピードじゃなかったんなら良かったじゃない。何か分かんなくても先に進むしかないわ」
マイが言う通り。分かんない事は考えても分かんない。新しい情報が入らない限り。
そして、僕らは進んでいく。しばらく天然洞窟みたいな穴を進むと、急に開けた所に出た。
「間違い無いですね。居ますね」
アンがぐるりと見渡す。まるで、神殿。古代の神殿のように岩をくり抜いた部屋だ。岩を掘って作ったかのような柱もあり、その上部には数多のレリーフがある。肉感的で写実的なそれは竜と人が戦ってるように見える。
「失われた竜王宮」
アンが言葉を漏らす。
「竜王宮?」
疑問が口から出る。
「竜王宮をコピーしたものですね。竜王宮に入った事があるのは、竜の王たる古竜のみ。これは古竜の誰かが作ったものですね」
「凄いわね」
「ああ」
僕もマイもあまりにもの神々しさに閉口している。ピオンの手にした松明の火がゆれ、まるでレリーフが生きてるかのように見える。
「古竜が作ったって、古竜って器用なんだな」
つい、口が開く。アンはめっちゃ不器用だから古竜が作ったって言われてもピンとこない。だって、アンは動物の絵を描いてもゲジゲジにしか見えないような画力だぞ。
「オリジナルは、ドワーフが作りました。私たち不器用ですからね。けど、その作ったドワーフたちも老いて死んで、見た事あるのは私たちだけになりました。竜王宮、大戦で破壊されたので……」
なんか、寂しそうなアンを見るのは久しぶりだ。




