芸忍者
「昔から、忍者って、薬売りや、大道芸人とかしながらいろんなとこを旅してたんやけど、最近は漫才ブームとかで、オーディションくぐり抜けて芸人になる忍者多いんや」
そうか、時代は変わるもんなんだな。
「そうなのか? けど、黒装束で忍者って感じの芸人見た事ないぞ」
「ばっかねー。さすがに忍者の暗殺者でそんな格好で漫才する人居ないわよ」
マイが手をパタパタしてる。そうは言ってるけど、これ、結構ツボった時の仕草だ。
「ばかで悪かったな……」
ん、ピオンがいつもの陰キャに戻ってる。何が地雷だったのか?
「もしかして、ピオンも芸人やってたの」
マイが追い打ちをかける。
「うん」
「えー、じゃ、グループ名は?」
「ザ・忍者……」
なんと、黒装束で漫才してるピオンが頭に浮かぶ。空気からしてウケなかったんだろうな。売れてたら、僕の暗殺なんかに来なかった事だろう。黒歴史っぽいからこれ以上掘り下げないどこう。それはマイも悟ってくれたみたいだ。
「あ、もうすぐ着くでー」
また、ピオンが陽キャのペルソナを着ける。がんばれ。
着いた建物はなんて言うか、絵で昔見た和国のお城みたいな建物だ。高い建物の一番上の屋根には金色の魚みたいなオブジェ、なんて言ったかな、思い出せない。
「マイ、あの金色のは何て言うんだったっけ?」
「ご主人様、あれは『金のカマボコ』ですよ」
アンが大声で、即座にドヤって答える。カマボコ? んー、似てるけどなんか違うような。なんか通行人がクスクス笑ってる。変な事言ったか?
「アン、それは違うやろ。『しゃちほこ』や。『しゃちほこ』。『カマボコ』は魚のすり身を焼いたもんや。しょうも無いボケせんといてや。笑われとるやん」
「ピオン、馬鹿にするなよ。私も関西風のボケをかましただけです」
絶対嘘。素で間違ってたよな。僕も人の事言えないが。僕はしゃちほこと言う言葉を心に刻み建物に入る。
「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか?」
おお、受付嬢は標準語だ。なんか久しぶりに我が家に帰って来たような感じだ。
ピオンが前に出る。
「うち、前にここでお世話になってた『ザ・忍者』ってコンビのプリンです」
『ザ・忍者』の『プリン』!
コンビだったのか? 相方の名前も知りたい。ていうか黒歴史すぎだろ。黒歴史と言うよりも暗黒歴史だ。正直『ザ・忍者』の漫才を見てみたい。
「お久しぶりですね。プリンさん。忍者姿じゃないから分からなかったです。それでご用件は?」
なんと、いつも黒装束でここら辺を練り歩いてたのか。メンタル強すぎだろ。さすが忍者。




