筋肉魔神
「おい、パム。モストマスキュラー!」
巨人は僕らのテーブルに近づくと、その前で両の拳を突き合わせ、全身の筋肉に力を入れる。デカかった筋肉が更にデカくなる。肩など血管が浮き出して凄い事になっている。けど、個人的にはキモい。そもそもこの人は何をしに来たんだろうか?
「レリーフ、お前が来るとややこしくなるだろ。帰れよ」
パムがレリーフと呼ばれた奴に手を振って追い払おうとする。
「そんな事無い。フロントダブルバイセップス」
レリーフと呼ばれた奴は次は曲げた両腕を上げて筋肉を誇示している。暑苦しい。普通にこの人は喋れないのだろうか?
「その前にパム、この人誰なの?」
僕はそもそもの疑問を口にする。
「ん、あ、レリーフだよ。オイラ達のパーティーメンバーだよ。ダークエルフの死霊魔術師だよ」
「嘘つけっ!」
つい反射的に反論してしまった。まず、あんなゴツいエルフなんて見た事が無い。確かにエルフ耳だけど、彼の種族は魔神とかオーガに違い無い。ダークエルフに憧れてるのかもしれないけどふざけないで欲しいもんだ。それに僕だって死霊魔術師くらいは知っている。アンデッドを操ったりする魔法職だ。こんなゴツい魔法職いてたまるか。
「パム、あとは頼んだぞ。俺は忙しい」
レリーフと呼ばれた奴はそう言うと、いきなり床両手をつきうつ伏せになる。何が始まるんだ? そして、おもむろに腕立て伏せを始める。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
レリーフは、呪文のように名前っぽいものを連呼している。これが死霊魔術なのか?
「パム、なんなんだコイツは? 頭バグってるのか?」
ダメだ。正直キモいと言うか怖い。
「大丈夫、コイツはいつもこんなだよ。おい、レリーフ、筋トレ辞め止めて何しに来たか話せよ」
パムの言葉はレリーフに全く届いて無いように見える。
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ」
レリーフの腕立て伏せは加速する。僕は何を見させられてるんだ?
「ケイト、スザンナ、ケイト、スザンナ、フッシュー」
滝のような汗を流したレリーフはゴロンと仰向けに転がり肩で荒い息をつく。そして、その太い腕を股間に伸ばすとその手には青い液体を抱えた小瓶が握られていた。どのから出しやがった? 今間違い無くブーメランパンツから取り出したよな? そして、上体を起こし、瓶の口を開け、中の液体を一気に呷る。
「フォーーーーッ! 最高だ。最高だミドルポーション。浸みるーーっ!」
今まで無表情だったレリーフの顔に浮かぶ少しの歓喜。僕たちの目はこの謎の巨人に釘付けだ。




