大通りと第一の城壁
「ごめんなさいねー、忘却」
妖精ミリアは物陰で人間スタイルになると、馬車の馭者たち4人を集めると、彼らの頭に手から光る粉を出して振りかけた。
「今のはなんなのですか?」
馭者の1人が問いかける。
「長生きするための祝福よ!」
『ありがとうございます』
僕達も馭者たちに礼を言い、彼らは馬車に乗って去った。積んでた荷物はギルドに搬入したらしい。帰りは魔道ギルドを通じてまた雇うとジブルが言っていた。
「お前、なにしたんだ?」
「あの人達にラファに関する事を忘れてもらったのよ。一応念のためにね。すごいでしょ!」
「凄いな。時々、お前が恐ろしくなるな……確かに政治に巻き込まれて命をさらされないための長生きの祝福というか呪いっぽいな」
「けど、自分の国の姫様の事忘れちゃって、これからの生活に支障ないかなぁ?」
マイの言葉に、妖精の顔がこわばる。確かにそうだな。
「だ、大丈夫よ多分、王様じゃなくてお姫様だから……」
「あー、それってなんかラファを軽く見てないー?」
ラファがミネアの肩を掴む。やからみたいだな。
「それでは、ラファ様、導師と私はタワーに向かいます。ではザップ連絡まってるよ」
「では、なんかあったらポータルで送りますね。また後で」
ミケとジブルは魔道ギルドのタワーの方へ歩いて行った。
「じゃ、まずは今来た道戻ろっか」
マイに僕達はついて行く。
僕達が今いる広場の回りには、墓石とタワー以外にも大きな建物ばかりだ。教会も大きいし、商業施設みたいなのもある。カフェやレストランもあるが、共通してるのはとても綺麗で高級そうだ。前、僕達がいた王都よりも洗練されている。ここらでの飲食や買い物は控えた方が良さそうだ。お金がばんばん飛んできそうだ。
しばらく歩き、ファーストウォールの門に着く。門番は立ってるが行き来自由みたいだ。巨大な分厚い金属の扉が外に向かって開いている。迷宮の中からの脅威に備えているって言うのは本当だな。普通とは開閉が逆になってるし。
「アン、お前この扉閉じたら通れるか?」
「ご主人様、それは面白そうですね、試してみますか?」
「止めとけ、こんな城壁だと一分も保たないだろ」
「そうですね、お腹減るだけですし」
アンは肩をすくめる。
「ザップ、アン、何の話なの?こんな分厚い扉閉まったら通れる訳ないじゃない?」
ラファが扉を見上げる。
「ラファ、ダメよ焚きつけたら、この2人なら、間違い無くあの扉くらい破壊できるから」
「いやいや、そんな事しないから」
マイの言うとおりだ。時間をかけたらマイでも破壊できるだろう。迷宮には魔物はこれくらいで閉じ込められるくらいの魔物しか出ないのならがっかりだ。
僕達は大扉の横の通用扉を通る。
「昔、迷宮から魔物が溢れたけど、一匹たりとも城壁からは出られなかったって本で読んだ事があるわ」
「それは魔物が弱かったからだろう。俺達は巨人と戦った事もあるが、その時の数体で多分城壁は破られると思う。それにドラゴンなら一匹で十分だろう」
「え、ザップ、ドラゴン見たことあるの?ここら辺ではドラゴンは迷宮の深層と本の中にしかいないわ」
ほう、そうなのか。
「ラファ、ドラゴンならそこにいるぞ」
アンを指さす。
「はい、迷宮と本の中にしかいないドラゴンです!」
手を上げたアンをラファがじっと見る。ラファの目が赤く光る。む、精神魔法か?
「おい!ラファ!」
「大丈夫よ、ザップ、無害な魔法よ。嘘感知よ」
妖精が僕を手で制する。
「ごめんね、ザップ。本当かなー?って思っただけで自然に発動しちゃうの。2人とも本当って事は竜化の魔法ね。今度見せてね!」
ラファがアンの手を握ってぶんぶんする。あ、2人って背丈同じくらいだな。
「いいですよ、今度背中に乗せてあげますよ」
アンがラファに笑いかける。
「ところで、宿どこにする?」
「あそこにしてみない?」
マイの指差したところには大きな赤い鳥の置物があった。どうも宿の目印みたいだ。
『火食鳥の目くじら亭』
僕達はその宿に逗留することにした。