ハイキング
「天気がいいから歩きたい」
姫様のわがままがまた始まった。
昨日は何事もなく幸せに睡眠をとり、日課の素振りのあと出発した。
よく考えると、依頼内容の姫様の怪我をエリクサーで治癒させるという仕事は終わっているので、別に敬う必要はないのではという事に気付く。
「おい、1人で歩け」
「ザップも一緒に歩こうよ、多分気分いいわよ」
「俺達はもう十分歩いて、歩きのプロフェッショナルになったから必要ないんだよ」
「えー、じゃあプロの歩きを見てみたい」
「嫌だ」
「ザップー、良いじゃ無いの、天気も良いことだし、少し歩こっか」
僕らの胃袋を鷲掴みにしているマイの言うことは絶対に近い。僕達は諦めて馬車を止めて降りる。
「ザップ、そよ風が気持ちいいわね」
マイが髪をかきあげる。
「ザップ、良かったでしょ、歩いて。ごめんね、わがまま言って。自分の足だけで歩くの久しぶりだから、練習もしたくて」
僕の横をラファが歩いている。
「そっか、足、怪我してたからな」
「ラファ様、少し走りませんか?」
騎士ミケがラファを誘う。2人は弾むように駆け出す。
まあ、たまには良いかもな。
しばらくして、肩で息をしている2人に追いついた。
「ラファ様、せっかくですので、スキルのトレーニングしませんか?」
アンがラファに問いかける。アンの頭には妖精が角を掴んですわっている。
「スキル?」
「そうです。火炎ブレスの練習しましょう」
「え、アンはブレス吐けるの」
「はい!ゴオオオオオオッ」
アンは横を向いてブレスを吐く。少女が火を噴く光景は少しシュールだ。
「なんで、アンはそんな事できるのですか?」
走り寄ってきた導師ジブルが口を開く。そりゃ驚くよな。
「それはですね、私はドラゴンだからです」
「またまた、こんなに可愛いドラゴンがいるわけないじゃないですか」
ジブルは冗談だと思ってるみたいだ。これは変身を見たときのリアクションが楽しみだ。
「ふーっ!」
ラファの吐息が少し燃える。
「おお、さすがですね、あとは呼吸ですヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
「こう?ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
なんか妊婦の呼吸法みたいだな。
「ゴオオオオオオッ!」
ほどなくして、ラファ姫は上手にブレスを扱えるようになった。やはり、さっきの呼吸法は妊婦の呼吸法だったらしく、アンはマイにこってりしぼられてた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ザップ、疲れたおんぶしてー」
ラファ姫は街道に直に座っている。馬車は先行してて、結構遠くで待っている。
やはり、歩き慣れていないので、筋肉が衰えてるのだろう。マイがじっと見ているのでおんぶはまずい気がする。
「しょうがない。これを飲め」
僕は収納から金色のポーションを出す。
「なにこれ」
ラファは受け取って蓋を開けて飲む。少しは警戒して欲しいものだ。
「甘ーい!美味しかった」
ラファは笑顔で僕を見る。気に入って貰って何よりだ。
「立ってみろ」
「うん、あ、力が溢れる。まだ、頑張れそうだわ」
ラファは立ち上がると、馬車に向かって走って行った。
「ザップ様、姫様に何を飲ませたんですか?」
ジブルが僕に問いかける。
「剛力のスキルポーション」
「ええーっ、なにそんな高価なものをポンポン他人にあげてるんですか!」
「あとで、経費で払ってもらうよ」
「払えねーよ、国、傾くわ!」
ジブルの地が出ている。そんなに高価なのか?
姫様には冒険者の振りしてもらうなら、ある程度は強くなってもらおうと思っている。
姫様をみると、もう馬車の所で手を振っている。
速い!
速すぎる!
あ、これはやり過ぎたかもな、多分……
このあと、スキルポーションの事は忘れ去られてお金は貰えませんでした。
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