地上に向かって 8
「あと1階だな。なんか降りるのより上る方が時間くってるな」
階段を上りながらつい呟く。さすがにそろそろ地上の光が恋しい。迷宮内のしっとりとした空気も嫌いでは無いけど、やっぱり外の方が空気が美味しい。
「すまんのー。ワシがホネガラに権限を与えたがゆえに」
ディーがシュンとしてる。反省するなら、せめて名前をもっとましなものに変えてやればいいのに。スケルトンのホネガラ。猫に猫助とか猫太郎って名前をつけるようなもんだからな。愛着がなさ過ぎる。
「そうそう、そう言えば、一層にはどんな魔物がいるの?」
シープが問いかけてくる。あ、そうか、一層のダンシングコインは計画的に殲滅してたから、シープとタイガーは遭遇してないんだよな。黙ってた方が面白そうだな。
「そんな大したものじゃないよ。地下一層だしね」
「そうよね。まあ、一層だからスライムとかゴブリンとかそんなところよね。楽勝よね楽勝」
ディーが何か言いかけるけど、手で制する。シープがダンシングコインを見た時のリアクションが楽しみだ。コイツ、強欲そうだからな。
僕たちは順調に階段を上り地下一層に帰ってきた。なんかここってもう自分たちの家って感じだよな。シープを先頭に僕らは進む。階段部屋を抜けて、通路を通り、最初の部屋に出る。やっぱり仕掛けてあった。
「えっ! なにあれ、もしかしてミスリル貨幣?」
シープが虹のような反射光の銀色の硬貨の山を指さす。とても綺麗だけど、一瞬背筋がゾクッとした。勘弁してくれよ。
「来た時は無かったって事は、もしかして、あんたの部下のホネヤローから私たちへの餞別?」
「ホネヤローじゃなくて、ホネガラじゃ。まあ、餞別って言えば餞別じゃのー。奮発しやがって」
ディーは渋面を作っている。そりゃそうだ。それを見て、少しシープが顔を顰める。コイツまだ気づかないのか? この迷宮の他の魔物の事考えたらわかりそうなものなのに。欲に目が眩んでるのか?
「何よ、あんたたち嬉しそうじゃないわね。あの光、間違いなくミスリル貨よね、あれだけあれば一生遊んで暮らせるわ。シートルあたりに海が見える別荘を買って、召使いにかしづかれながら優雅に余生を過ごすわ。良かったー。こんな辺鄙な迷宮に来てハズレ引いたわーって思ってたけど、最後の最後にこんなサプライズがあるなんて。やっぱこういうのって日頃の行いがものを言うのね!」
シープが怒濤の如く言葉を紡ぐ。今、幸せなんだろうな。妄想までして。けど、残念だけど、ハッピーリタイアにはまだ早いよ。




