密出国者
「すみません、しばらく馬車止めます。後続が止まりましたので」
馬車が止まり、馭者が扉を開けて話かけてきた。
どういう事だろう。僕達の馬車は2台、今乗ってるソファ張りの対人車と、後ろから荷物を積んだ荷馬車が付いてきてる。なんかトラブルだと思うが、逼迫してない馭者の話方から大した事ではないと思う。
「マイ、降りるぞ」
それでも一応確認のためにに馬車を出る事にする。アンと妖精はよだれを垂らしてねてるので、これ幸いと置いていく。あいつらがいると、普通の事が大事になる。
少し離れた所に荷馬車が止まっていて、その馬車の2人いた馭者の達がいない。駆け寄る僕達に導師ジブルも付いてくる。ちなみに騎士ミケも車酔いで寝かしつけられている。あいつ本当に強いのか?
馬車の後ろに回ると僕達の馬車の馭者と、荷馬車の2人が積荷の検分をしている。
「どうしたんだ?」
「いやですね、なんか積荷の中から声がしたんですよ。多分、隠れて乗り込んだ奴がいます」
「珍しいですね、アウフの出入りは見た目緩いから密入出国する人間は少ないんですがね」
ジブルは腕を組む。
「生物探知」
ジブルはドクロの付いた悪趣味な杖を振り上げる。
「居たわ。樽の中よ!」
おお、荷馬車の樽に隠れる。なんてベタなんだ。どうして誰も気付かなかったのだろうか?
「俺が開ける。みんな下がっとけ」
樽をこじ開けると、中にはなみなみと水が入っていた。
「おい、水じゃないか!」
「変ね、確かに生き物の反応がしたんだけど」
「お前、大丈夫か?もしかしてポンコツなのか」
「すみません。精進します」
ジブルはしょげて下を向く。
「あんたら、揃いもそろって大馬鹿なの?」
いつのまにか後ろに妖精ミネアが立ってる。
「なんだいきなり」
「魔法消去!」
ミネアの体から出た光の粉が僕達を包み込む。
「え、お前なにしてる」
さっきまで、水が入っていた樽の中で、少女がこちらを見つめている。
「あーあ、ばれちゃった」
樽から出て来たのは、魔道都市の姫様ラファだった。
「ラファ様!なにをしてるのですか?」
ジブルが姫に駆け寄る。
「あたしも、迷宮都市にいきたいー!」
「駄目です!危険ですから」
「あ、そう、じゃ、街に戻って、あたし元気になりましたーって街中で踊りまくるわよ。そしたらなんかつじつま合わなくなるんじゃないの?」
正直頭がついてこない。樽に姫様がはいってたけど、それは水だった訳で、水が姫様になって……
「要は、姫様が荷馬車に隠れてて、俺たちに魔法で幻覚を見せて水のふりして、ミネアがその幻覚を消した。こういう事か?」
「そうよ!あんな単純な魔法にひっかかるなんて、あんたたちばかなんじゃないの?あたしがいないと何もできないんじゃない?」
ごもっともです。今回はなにも言えない。魔法こえー!
「けど、導師って魔法のプロじゃないのかよ?」
「はい、そうですけど、ラファ様の魔力は強力で、多分街で1番強いのではと言われております」
ジブルはまたへこむ。なんか幼女を虐めてるみたいだな。
「それなら問題ないんじゃないか?諦めて連れて行こう。今から戻るのもなんだし、それに姫様が治癒してる事が公になったら、ややこしい事になるんじゃないか?」
「きゃ、ザップ大好き!」
ラファ姫が僕に抱きついてくる。
「ザップ!」
マイが僕を睨む。
こうして、旅の仲間がもう1人増えた。