少女ラファ
なんで多分清く正しく美しく生きてきた僕がこんな目に合わないといけないんだ?
なんか気が長い僕でさえ無性に腹が立ってきたので、そろそろここから出ようかなと思い始めた。
カツン、カツン!
通路の方から音がする。なんか固いものどうしをぶつけてるような音だ。少しびびって身構えながら格子に近づくと、杖をついた少女が奥の方から歩いてきた。よく見ると右足が無い。あと顔の右半分をぐるぐると包帯で隠している。
「あなたが、街に潜り込んだテロリストなの?」
謎の少女が僕に問いかける。整っているけど痩せぎすで、印象的なのはその目、ワインのような紅い目が僕を見据える。吸い込まれそうな色に心が奪われる。
「テロリスト?違うな!俺はただの観光客だ」
少し気が飲まれそうになるが、僕は口元を上げて強気に答える。
「ふうん、じゃ外の世界から来たのね。あたし、あなたの話が聞きたいわ」
少女はそばにあったスツールを不器用に引き寄せて格子の前に座る。
「誰なんだお前?」
「ラファよ。あたし退屈なの……外には出られないの見ての通りだから……」
ラファはゆるゆると包帯を取る。そこには赤くケロイド状に引き攣った皮膚と落ち窪んだ眼窩が。
「お前…どうしたんだ?」
「昔ね、魔獣に襲われたの……ケルベロスって言うらしいのよ。それよりもあなた私が怖くないの?気持ち悪くないの?」
「馬鹿か。怖いわけあるか。そう言えば自己紹介がまだだったな、俺の名はザップだ。ザップ・グッドフェロー、荷物持ちだ」
なんか、ここから出られないって言うのが可哀想だったのと、僕は暇だったので、今までの冒険の話を始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「悪いなポルト、決めたんだ世界を見て回る事を!」
僕は手を突き出して大きなジェスチャーで王都から旅立った時の事を実演する。
「きゃー、格好いいザップ!」
少女ラファは僕に惜しみない拍手を送る。正直少し嬉しい。
「こういう時って、普通だったらおひねりとか渡すって聞いた事あるけど。あたし何ももってないの。アメちゃんくらいしか持ってないわ……」
「俺、今さあ、とっても甘い物食べたい気分だなー!」
「うふふ。じゃあアメちゃん欲しい?」
「ああとっても欲しい」
「どうぞ!」
少女は僕に紙にくるまれたアメをくれる。とっても美味しい。喋りすぎたので、喉がいやされる。
「あーあ、あたしもザップみたいに外の世界を見て回りたい。小っちゃい頃から魔法の勉強してきたから、普通に歩けるなら冒険者にもなれたのにな……」
「ん、ラファこっちに来い。今から起こる事は決して誰にも言うなよ」
僕はこの娘が気に入った。理由はそれだけで十分だ。
「え、何、何なの?ザップ」
ラファは椅子をずって近づいてくる。僕は収納からエリクサーを出してラファにかける。
「え、何これ?」
かけたエリクサーがラファに吸い込まれる。
「足が、顔が痒い」
無くなってた右足は即座に生えて、顔の火傷所の皮膚が崩れ落ち、新しい皮膚がのぞく。落ち窪んだ眼窩も彼女が瞬きする間に盛り上がり、澄んだ紅色の綺麗な瞳が現れる。
「あ、足、あたしの足。目も見えるわ、や、火傷も無い……」
ラファは足や顔を撫でる。
「アメのお礼だ。なんか不具合はないか?」
「え、嘘、夢みたい。ありがとう、ありがとうザップ……」
ラファは蹲ると、激しく泣き始めた。