導師怯える
「大丈夫ですか導師?しっかりして下さい!」
女性騎士ミケが導師に駆け寄り揺すって抱き起こす。
「おのれ、何をした!」
騎士ミケは僕をキッと睨んでくる。
「まてまて、俺は何もしてない。そいつが勝手に倒れたんだ」
本当に何もしてない。
ピリリリリリーーーッ!
騎士ミケが首からかけたホイッスルを吹く。扉が開き、屈強な男達が部屋に入ってくる。衛兵だ。手に小槍を持っている。その穂先を僕達に向ける。マイは即座に部屋の隅に下がる。僕とアンは牢の中で毛布に包まったままだ。格子ごしなので大丈夫だろう。
「第一種戦闘配備につけ!敵は謎の攻撃を使う」
騎士ミケは導師を小脇に抱え、男達の後ろに下がる。うむ、どうしよう。取り敢えず、なんか威嚇でもするか?
「待ちなさい!」
導師が頭に手をあてて、ふらふらと前に出る。
「すみません、誤解です。皆さんすぐに持ち場に戻って下さい。この方々は無害です!」
導師は強い口調で衛兵たちを振り返り解散させた。衛兵たちはぶつぶつ言いながら帰っていく。騎士以外全員が出て行って、導師は扉を閉め鍵をかけた。ん、何故鍵を?
「すみませんでした。許して下さい……」
導師は帽子を取ると土下座した。
「ミケ!あなたも頭を下げなさい!命令です!」
「え、あ、はい」
女性騎士ミケもあたふたしながら土下座する。
「誠心誠意謝るのよ!」
「「申し訳ございませんでした」」
2人の声が見事にシンクロする。
「頭をあげろよ、俺はそんなに怒っていないから、ただ買い物してただけで汚くて寒い牢屋にぶちこまれて、衛兵に威嚇されただけだからな」
「うう、怒ってますね、すみませんでした」
導師は頭を上げたが、また涙目で土下座する。ブルブル震えている。
「ザップー、なんか可哀想だから許してあげたら、なんか虐めてるみたいよ」
マイが格子のそばに椅子を持ってきて座る。
「ああ、だから怒ってないって、俺はな」
「私はそうですね、なんか暖かい食べ物があれば大丈夫ですよ」
アンにそろそろなんか食べさせないと空腹で暴れ始めかねないな。
「導師さん、俺のスキル使ってもいいか」
「すみません、勘弁してください。殺さないで下さい」
導師はまた床に頭をこすりつける。
「言葉足らずだったな、あんたらに危害を加えるものは出さない。ただこいつに飯食わせたいだけだ」
「はい、どうぞ喜んで、けど私たちは食べないで下さい」
どうも導師は恐怖で頭が回らなくなったみたいだ。これじゃ会話にならないな。
「どうしたものかな、導師だけに」
僕の言葉は完全にスルーされた。