番外編SS 荷物持ち出発する
「短い間でしたけど、本当にお世話になりました。また、この町に寄った時には、必ず利用しますのでよろしくお願いします」
僕は目の前の人々を一人一人目に焼き付けながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
ここはなじみの宿の入り口、全ての従業員さんたちが僕達を見送りに出て来ている。他よりも料金は少し高めだったけど、本当にここの宿は居心地がよかった。いろんな僕達のわがままも快く引き受けて貰えた。
マイに快く厨房を貸してくれた食堂の人達。
寒がりのアンのためにわざわざ掘り炬燵を作ってくれた宿屋の主人。
いい人達ばかりだった。
食堂には揚げ物セット一式をプレゼントした。アンの掘り炬燵は元の通りに戻して、主人には幾ばくかの金銭を差し上げた。
「またのお越しを従業員一同、お待ちしております」
宿屋の人達が頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうございました」
『ありがとうございました』
僕達も頭を下げ、宿屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なぁ、本当に行ってしまうのか?」
カイゼル髭の領主が僕に問いかける。
その横には僕達が鍛えた騎士を始めとして、多分ほとんどのこの町の騎士が勢ぞろいしている。そしてその後ろにはこの町の人々が溢れかえっている。
ここはこの町の入り口の門だ。僕達の旅立ちに領主を含め沢山の人々が集まって来た。
領主にはあらかじめ別れを告げていたのだが、見送りに来てくれた。
「ああ、広い世界を見に行ってくる。必ずまた帰ってくる」
僕は領主に笑顔を作る。
「分かった。俺とお前は何時までも兄弟だ。悲しい事や辛い事があったら、何時でも俺の胸で泣いていいからな!」
「おい、領主、ホモっぽい事を衆人環視の前で言わないでくれ!」
「冗談だ。またな、ザップ」
「ああ、またな」
僕と領主はきつく握手した。
『ありがとうございました』
僕達は、みんなに頭を下げる。
「我らの英雄ザップに敬礼!」
騎士団長が声を張る。
騎士たちが胸に手をあてこの騎士団の敬礼をする。僕達もそれに倣う。
『ザップー』
『ザップー』
『ザップー』
『ザップー』
『ザップー』
『ザップー』
みんなが僕の名前を連呼する。少し恥ずかしいが悪い気はしない。少し出発を躊躇ってしまう。
「アン!変身だ」
アンにドラゴンになって貰う。僕とマイは巨大なドラゴンの背に乗る。みんなの声を背に受け僕達は出発した。
「ザップ、いい町でいい人達だったわね」
風を切るアンの背中で、マイの目からこぼれた涙はキラキラ光りながら、流されて行った。
読んでいただきありがとうございます。
ここで、一端SSは終了で、『第二部』に突入です。まだまだお付き合いいただけると幸いです。
みやびからのお願いです。
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