番外編SS 荷物持ち少女冒険者に敗れる?
「さあ、どこからでもいいぞ、4人まとめてかかってこい」
僕は少女冒険者4人に手招きをする。客観的に見るとコートの男がいたいけな少女を挑発してるその姿はどこからどう見ても悪役、下手したら犯罪者にしか見えないのでは……
ここは町から少し離れた広野。人目が無い所で良かった。
僕達の戦いを見てるのは、マイとドラゴンの化身の着膨れがましになったアンと、妖精のミネアだ。
マイにはもしも何かあった時に即座に収納のエリクサーを使って貰うために付いてきて貰ったのだが、アンとミネアはただの冷やかしだ。
戦いの邪魔はしないように、マイを通じてきつく言ってある。奴ら僕の言う事は全く聞かないのに、何故かマイの言う事は大人しく聞く。多分食べ物絡みで発生した序列だと思うが。
4人の少女冒険者はとてもとてもしつこく、いついかなる時どんな場所でも僕に戦って欲しいと土下座をし続けた。夜討ち朝駆け当たり前で、風呂だろうがトイレだろうが何処でも突撃してきやがった。正直勘弁、睡眠不足で少しイライラする。彼女達のおかげで、多分間違いなく町では変な噂が流れまくっている事だろう。
僕はさすがに根負けして、マイに常識を教えて貰う条件で、その挑戦を受ける事にした。なんでそんなに僕と戦いたがるのだろうか?
出会った時は、普通の可愛らしい少女達だった気がするが、今では下着姿で駆け回ったり、裸で風呂入ってる僕の所に吶喊してきたりなど、彼女達は強くなるにつれて、悪い意味でメンタルも強くなっていったみたいだ。
「行きますっ!」
戦士アンジュが両手に斧を構えて僕の間合いに飛び込んで来る。おお、速いな。
振るう斧を順番にミノタウロスのハンマーで受け止める。中々力強い。けど、それだけだ。僕はアンジュの斧を収納に奪おうとするが、アンジュは大きく跳びすさる。
「その手は食いませんよ。武器を奪おうとする時は視線で分かるっす」
ほう、中々成長したものだ。
「隙ありっ」
神官戦士のミカが斧で僕がいた所を凪ぐ。彼女も一撃離脱で武器を奪わせない戦法みたいだ。
「ファイヤーボルト!」
「ていっ!」
魔法使いのルルのぶっとい炎の矢と、エルフの野伏のデルの投げた岩が僕を掠める。
そうか、前衛二人が僕を撹乱して、後衛でとどめを刺すつもりか。悪くは無い。僕が彼女達でもそうするだろう。けど、僕を舐めすぎだ。
「中々悪くはない。けど、俺が奪えるのはお前らの装備だけじゃない。次は俺の番だな」
僕はハンマーを収納にしまうと、彼女達に無造作に歩き始める。
「お前らの望んだ本気を見せてやる」
「大丈夫。いつも通りにやれば勝てるはず!」
アンジュが仲間に檄を飛ばす。3人は頷く。
「ザップ兄様、本物の魔王みたいですぅ」
ルルが僕を目をキラキラしてみてる。
ま、魔王は勘弁してほしい……また、こいつに変な噂を流されるのでは?
一瞬足が止まったが、気を取り直して女の子達に立ち向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はい、参りました……」
アンジュは全てを諦めた顔で呟く。
4人の少女冒険者は地面から首だけ生やしている。彼女達の体はすっかり地中に埋まっている。
簡単だ。彼女達の足下の土を収納に入れて落ちた瞬間に戻しただけだ。初見殺しなので、一息に4人とも埋めてやった。少し可哀想な気がするが、彼女達に攻撃せずに無力化するには、この方法が最適だろう。
「それで、なんでそんなに俺と戦いたがったんだ?」
僕は4人を順番に見る。ルルが口を開く。
「それはですね、アン様がもしザップ兄様に一撃与える事が出来たら、私達のパーティーに入ってくれるって約束されたからです」
「あ、そう言えば、そう言う事、前に言った気が……」
アンが僕のそばに来る。今回もこいつが元凶か、なんか腹立つ。
「お前も埋まれ」
「ひいっ!」
とりあえず、アンも埋めてやる。
代わりにアンジュを出してやる。
「アンジュ、手を前に突き出せ」
「は、はい」
突き出したアンジュの手に軽く頭突きする。
「うわ、さすがだな、アンジュ。俺に一撃入れるとは」
僕はアンを指さす。
「これで晴れてこの穀潰しはお前たちの仲間だ。煮るなり焼くなり好きにしてよし」
「え、ごご主人様ーっ」
アンが叫ぶ。
「よし、解散!」
僕は、アン以外を土を取って穴から解放する。あとはなんとかなるだろう。
「アンちゃん、さよならーっ」
「アン、またねーっ!」
マイとミネアは泣く振りをして手を振る。
僕達は町に戻った。
しばらくして泥だらけで帰ってきたアンは反省してたので許してやる事にした。