番外編SS 荷物持ち迷宮に別れを告げる
「ザップ、風が気持ちいいわね」
髪をなびかせてマイが言う。どうやら乗るのにも慣れたみたいだな。
「そうだな」
マイは、チューブトップにショートパンツにミノタウロスの腰巻きマントといういつもの格好で、僕はシャツにパンツとコートという格好だ。正直風が冷たい。
僕達はドラゴンになったアンに乗って、原始のダンジョンに向かっている。騒ぎにならないように町の領主には言づててる。
「加速モード!」
別に口に出さなくてもスキルは発動するのだが、気分の問題だ。アンの前の空気を収納に入れて、後ろから出すことで空気抵抗を無くし加速する。
「うわ、景色が流れていく」
風は弱くなったけど、マイは満足そうだ。
程なくして、なじみの原始のダンジョンについた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マイは部屋の中央に花束を置く。僕らはしばらく黙祷する。
ここは、初めてマイと会った部屋だ。マイを雇った冒険者達が夢破れた所だ。
何回もこのダンジョンには来たので、道のりは全て頭に入っている。ローテーションで一人が経験値補正のある僕のミノタウロスのハンマーで敵を倒し、あとの二人が金目なものを回収するというスタイルで、難なくここまで来た。
僕達は無言のまま部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「懐かしいな」
次は39層の僕が突き落とされた落とし穴の前だ。ここから飛び降りたらショートカット出来るけど、落ちたら痛いので見るだけだ。いろんな事が頭をよぎる。
感謝はしないけど、この穴に落ちたお陰で僕は強くなることができた。僕は穴の縁でその深淵を眺める。
「わっ!」
アンが僕を後ろから押そうとする。多分ふりだけだとは思うけど。影が見えていたので僕はかわす。
「うわっとっとっとっと」
アンは縁でバランスを崩す。僕は手を出すが間に合わない。
「あああああーっ」
アンは穴に吸い込まれて行った。
「大丈夫かなぁ?」
「間違い無く大丈夫!」
僕らは無かった事にして、先に進んだ。リザードマン、ヘルハウンド、ミノタウロス、そしてミノタウロス王を仲良く交代で倒していく。ドロップアイテムは渋めで、特筆すべきは剛力のスキルポーションだけだった。またかよ。
「遅いじゃないですか、待ちくたびれましたよ」
アンはエリクサーの泉の前で寝っ転がってた。僕達が着くと立ち上がった。完全に寝てたな。よだれの跡がある。
「えー、めっちゃ急いだわよ」
「二人っきりって怪しいですよね」
「何もやましい事はしてない」
僕は作業に取りかかる。
「ご主人様って、朴念仁ですよね」
「なんだそれは?」
なんかややこしくなりそうなので、後はスルーする事にした。
ここが今回の目的地だ。泉にポータルを設置する。これで無限にエリクサーを使える。僕のトータル能力が向上した。しかもタブレットのお陰でマイも使える。
アンがいた奥の部屋にはまたドラゴンが配置されてたので、軽くぶっ倒して収納に入れた。
アンの前の主人の墓標に花束を手向けて、僕達は迷宮を後にした。
「もう、しばらくここにはこないだろう。さよならだな」
「うん、ありがとう、さよなら」
マイは迷宮の入り口に手を振る。
「前のご主人様、また、いつか」
アンも手を振る。
僕は一瞥すると背を向けた。
迷宮に別れを告げたはずですが、このあとも何度もザップは遊びに来ます。