番外編SS 荷物持ち後悔する
「何でこんな事に……」
目の前には長蛇の人の列、それが僕達を待っている。人混みが苦手な僕はそれを見るだけで軽く目眩がする。
「番号札12番のお客様ーっ」
マイの澄んだ声が響く。待ってたお客さんは番号札と商品を交換して嬉しそうに去る。
僕は軽い気持ちで引き受けた事を後悔した。
僕達が今何をしているかというと、魔物殲滅祭りに、宿屋の食堂から出店で唐揚げの屋台をするということで、マイに頼まれたのもあって、屋台の手伝いを軽い気持ちで引き受けた。
唐揚げ一個を銅貨1枚で売っている。屋号は英雄ザップーの唐揚げだ。英雄というのは少し恥ずかしい。悲しいけど僕の名前はザップーで定着してるので、もう諦めた。
マイが接客と会計をして、アンが盛り付けと色々サポートをして、僕が唐揚げを揚げている。
マイとアンはフリフリのメイド服だ。正直可愛い。あと食堂の従業員と少女冒険者四人は食堂で仕込みをしている。鶏肉を適度な大きさに切ってそれをたれに漬け込み本来は一日寝かせるところを時間がないので、肉がタレを吸うまで揉むことで代用している。
最初のうちは注文された分だけを揚げていたのだが、どんどんお客さんが増えて追いつかなくなってきたので、二つ用意してた油つぼに入る最大数60個を砂時計を使って5分間揚げるを繰り返している。因みに今日は二度揚げは難しいので止めている。
「ザップー、どうしよう追いつかないわ」
マイが僕を見る。いかん、僕的にマイは可愛い。それだけでなんでもやってやろうぜ的な気分になってしまう。どうすればいい?考えろ……
揚げる量に絶対的に注文量が追いつかない。揚げるものを増やすしかない。
「アン、しばらく唐揚げあげててくれ」
「了解です。ご主人様」
僕は宿屋の食堂に走る。
宿屋の食堂から大きい鍋をもってきて、魔道調理具の上に置き、収納から油を出して満たす。
「アン、温度を上げろ」
アンのドラゴン吐息で、みるみる揚げ物出来る温度まで上がる。油に引火しそうで少しヒヤッとした。
「これで、一回で160個はいけるようになった」
「きゃー、さすがザップー!」
「さすがです。ご主人様!」
マイとアンがはしゃぐ。少し照れる。
「さあ、反撃の時間だ!」
僕は肉に片栗粉をつけて、マッハで油に入れて行く。
加速のおかげで、なんとか追いついてきたが、なんか一人一人のお客さんの頼む量が増えてきて、絶妙なシーソーゲームになってきた。行列はまだまだ尽きない。
「ザップ兄様!鶏肉が無くなりました!」
戦士のアンジュが屋台に飛び込んできた。
「な、なにっ!」
100キロは用意してたのに……
「アン、また頼んだ」
僕はアンジュと食堂に走る。
「これを使え」
僕は収納から唐揚げに使える位柔らかい部位のヘルハウンドの肉を出す。
「「「了解!」」」
食堂メンバーはその肉を調理し始める。僕は急いで屋台に戻る。
「マイ、これからは鶏の唐揚げじゃ無くてヘルハウンドの唐揚げだ。説明頼む」
「わかったわ、まかせて」
マイは親指をあげる。
最初は後悔してたけど、僕の唐揚げのためにこんなに沢山の人が並んでまで待ってくれる。
しかも、食べた人はみんな素晴らしい笑顔になっている。その事が僕の心に火をつけた。今日だけはやり抜いてやる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう四時間位はたったのではないだろうか?鐘楼の鐘から判断すると多分それ位だ。まだまだ行列は途切れない。
「ザップ兄様!また肉が!」
また、アンジュがくる。もう肉ないよ……
いや、あった。ここでやめたら待ってる人達に申し訳ない!
「アンジュ、お前達から預かってる肉つかってもいいか?」
「いいにきまってるじゃないっすか!急ぎましょう」
僕は収納の中にあったとびきりの肉を食堂メンバーに渡した。
肉が変わったのを確認し、マイに伝える。
「マイ、こんどはスペシャル肉だよろしく」
「わかったわ、スペシャル肉ね」
目を光らせてマイは頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あー、やっと終わったわね。こんなにお客さんくるなんて。ありがたい事に、とっても喜んでもらえたわね。なんと小金貨50枚分以上売ってるわ」
マイは素晴らしい笑顔を浮かべてる。
僕達は感慨に浸りながら撤収作業をしている。
なんか、まわりがザワザワしている。
「つ、杖無しで歩ける」
声の方を見ると、老人が杖をふりながらしゃきシャキシャキ歩いている。
「目が、目が見える!」
老婆がはめてた眼鏡を外してきょろきょろしている。
「力がみなぎる……」
ひよわそうな若者が呟いている。
みんな見覚えがある。僕達の唐揚げを食べてた人々だ。
「筋力強化、暗視、超回復、スキルが発動したみたいね」
「マイ、鑑定か?」
「そうよ、ところでザップー、最後のお肉って何の肉だったの?」
「ド、ドラゴンだ……」
「………………」
マイは絶句する。
「ザップのばかぁ、ドラゴンの肉って超貴重で食べたらスキルが発動する事もあるらしいのよ!」
「え、そんなに凄いのか?」
僕とマイは顔をを見合わせる。マイはやれやれのポーズをする。
「沢山の人に喜んでもらえたから、まぁいいか」
マイは微笑む。
「けど、見る限り、かなりの人にスキルが発動したみたいね。なんか問題にならなければいいけど……」
僕は少しやりすぎた事を後悔した。
から揚げって美味しいですよね。
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