番外編SS 荷物持ちのお昼
今日は仕事はしない!
そう誓って日課の素振りを終えて、部屋にお湯を持っていってそれで絞ったタオルで汗を拭う。
「それで、マイ、なにしてんだ?」
上を脱いで汗を拭いてる僕をマイは正座してじっと見ている。耳が嬉しそうにピクピク動いている。
「え、ザップの汗を拭くのを手伝って、そのあとあたしも拭こうと思って」
なに当然のように爆弾発言ぶっこんでんだ?
「だめだ、だめだ、自分で拭く。マイも自分の部屋に戻れ」
扉を開けてマイに退室を促すと、そこにはアンジュ、ミカ、デルがいた。
「お前らは何してるんだ?」
「はい、私達もお手伝いしようと思って来たっす。決して覗きに来たわけではないです」
覗きに来たのか。なにもしないつーの。
全員を追っ払って、汗を拭きお湯を捨てて、食堂に向かう。食堂で、果物と飲み物を買っていただく。休みの時の日課の軽い朝食だ。
次はドラゴンの化身アンの部屋に向かう。部屋に入り、炬燵の住民に一通り挨拶をする。
アンの部屋には掘り炬燵があり、入って正面一番奥にはアンが着ぶくれ状態で座っている。今日の角当て、角に被る靴下みたいなものはピンクの水玉柄だ。大きさと用途から多分特注だと思うがどこで手に入れてるのだろうか?決して欲しい訳ではないが、柄が多彩なので、ついつい疑問に思ってしまう。
アンは気だるそうな目で、もきゅもきゅミカンを食べている。こいつ、何考えて生きてるんだろうか?
その右手にはアンジュたちのパーティーの一員、魔法使いのルルがいる。金髪でボブカットの髪で、胸がやたら大きい。今は横たわって本を読んでる。
入って左手の席につく。時々ここにはマイがいるので、その時は炬燵を諦めている。あと、今の僕の正面には最近ここに入り浸るようになった、妖精のミネアが人間に化けて本を読んでいる。
「アン、邪魔するぞ」
と言っても、もう座っているのだが。
「どうぞどうぞ、ゆっくりしていって下さい」
「ありがとう」
僕は炬燵の中に入ると、収納から本を出して読み始める。
初等魔術についての本だ。今まで困った事が無かったので魔法については余り勉強してきてなかったが、魔法でしか倒せない敵もいる事を知ったので、早々に魔法を使えるようになるか、永続的に使える魔法攻撃手段が欲しい。
今、その方法を模索中だ。
「ザップ、昨日の本の続き貸して」
ミネアが僕に本を差し出す。もう読んだのか速いな。本の続きを出してやる。ミネアに貸してるのは王都で流行ったライトノベルで、主人公がスライムになってしまう話の本だ。僕のお気に入りで全巻収納にはいっている。
あと、今気に入ってる本は、何の能力もない主人公が死んだらまた少し時間を遡ってやり直せる能力で成長していく話の本だ。これは今ルルが周りが目に入らないくらい集中して読んでいる。この話は完結していないので先が楽しみだ。
もしかしたら、僕もかなり数奇な体験をしてきたので、その体験を本にしたら面白いのではないかと、ふと思った。
バタン!
扉が開き宿の従業員さんが入ってくる。
「今日のお昼はお任せでよろしいですか?四名様ですね。お飲み物水以外の方は?」
なんと、ここには食堂から注文を取りに来て届けてくれるのだ。僕たちは届けてくれた食事をいただいた。
アンの部屋では炬燵を中心にゆっくりとした時間が流れていく。悪くはない。むしろ心地よい。今日はここでゆっくりする事にした。