ザップ本
「ところで、お前、どれだけ僕の本を売ったんだ?」
炬燵で僕の右手で本を片手に煎餅食べてる少女に話しかける。彼女の名前はルル。迷宮都市をメインに活動してる冒険者パーティーの魔法使いだ。金髪ボブで垂れ目がちな青い瞳。いつも無造作にローブを纏ってるからそこまで目立たないが、痩せているのに超爆乳。今もその怪物を炬燵のテーブルにオンしてやがる。
「んー、わかんないわ。結構もうかってるー」
こっちを見ることも無く、なんか会話を流されてる。
「マイー」
僕は左手のマイに話しかける。これだけで意図は通じたはずだ。
「ねぇ、ルル、ザップ関係の本ってどれだけ書いたの?」
「はい、マイ姉様」
ルルはしゃんと背筋を伸ばす。なんだこの違い。なんかほぼここに入り浸る人って僕よりマイの方を立てるんだよな。なんでだろ。
「まずは、この3冊で、これはベストセラーで、あとは趣味の本を多分10冊前後です」
ルルはそう言うと収納から3冊の本を出す。
『最強の荷物持ち【外道勇者と荷物持ち】』
『最強の荷物持ち2【黒竜王と荷物持ち】』
『最強の荷物持ち3【神竜王と荷物持ち】』
表紙にはそう書いてある。僕はそれを矯めつ眇めつ観察する。ちょっとワクワクする。なんせ、僕が主人公な本だよ。
1巻目の表紙には猫耳美少女と角が生えた美少女が書いてあり、2巻目の表紙には赤目銀髪の美少女と4人の美少女、多分髪型からルル達だと思われる。そして3巻の表紙は金色のドラゴンと金色のビキニアーマーの美少女、多分北の魔王リナが書いてある。
「あのさ、主人公って俺だよね。どこに俺書いてあるの?」
「ほら、見て下さいよ。全部に書いてありますよ」
ルルが身を乗り出して1冊1冊指差していく。つい目の前で揺れている化け物に目がいきそうになるが必死に我慢する。うん、よく見ると、全部にちみっちゃく猿人間スタイルの野人テイストの僕と思われる人物が書いてはある。酷い。主人公なのに……
「まあ、しょうがないわよね……」
マイも乗り出してきて本の表紙を見る。
「あたしなんて表紙にいるの1巻だけだから、それよりマシじゃ?」
「安心して下さい。マイ姉様は全巻に挿絵があります」
「で、なんで俺の扱いがこんなに酷いんだ?」
「大丈夫ですよ。ザップさんは主人公だから。あのですね、私だって本当は筋骨隆々のザップさんを表紙にしたいですよ。けど、小説ってですね、書店に並んでいる時にはまずは表紙しか見えないじゃないですか。そこにマグネット、要するに買い手を引きつける何かが無いと見てすら貰えないんですよ」
「あ、分かったわ。表紙を可愛い女の子にしてたら、男の人達の目に止まって買って貰えるかもしれないって事ね」
マイが開いた手のひらに右手の拳をぽむっと乗せる。なんか古いリアクションだな。
「という事は、俺の猿人間スタイルが表紙だったら、それが好きな人が買うって事か……」
それはヤバい。ぼろ布を首と腰に巻いただけの男が好きな人。間違いなく特殊性癖なのでは……
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