トラウマ克服
「役立たずのクソ野郎! お前を『ゴールデンウィンド』から追放する!」
石造りの部屋の中に、良く通る男の声が響き渡る。
乱暴に僕から魔法の袋を取り上げると、金髪イケメン勇者のアレフは、僕の腹を勢いよく蹴りつけた。僕は苦痛に顔を歪める。蹴られるのはいつもの事だ。弱い奴程すぐに手を上げる。
「うぐっ!」
僕はその場に崩れうずくまる。痛いふりくらいはしないとな。
「そうね、この魔法の収納の袋があれば、ザップなんかもう要らないわよね」
厚化粧の無駄に発育のいい体をした魔法使いのポポロが、杖で僕をつつく。人をつつくのはつつかれる覚悟がある者だけだ。今度つつき返してやるか?
「魔法の袋は、飯も食わなければ、報酬も払わなくていいからな。それに、守ってやる必要も無い。今まで以上に探索がはかどるな」
勇者アレフは僕に唾を吐きかける。遅いな僕に唾を当てたいなら弓矢より早く無いと無理だ。僕はそれをかわし戻る。奴には唾が僕を貫通したように見えたはずだ。まあ、けど、奴の空っぽな頭じゃ何が起きたのか分からないだろう。
「契約解除だな。おい、ザップ、俺たちの荷物を全部出せ」
禿頭巨漢の戦士ダニーに言われるままに、僕は全ての荷物を魔法の収納から出す。
ガツッ!
ダニーが僕の頭に鉄拳を下した。
「まだあるだろう! 俺は全部出せっていったんだ!」
「ダニーさん、後は僕の私物しかないが?」
ゴスッ!
見てるだけかと思った極悪聖女マリアの前蹴りが、僕に食い込む。ぬるい蹴りだな。
「四の五の抜かすな! 全部だ・せ・よ!」
聖女マリアは僕の髪を掴むと、端正な顔を触れんばかりの距離まで近づける。魔法の収納から全ての物を取り出した。全部出せと言う事は、やっぱり出さないといけないのか? 勢いよく僕は全ての服も脱ぎ捨てた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕の名前は『ザップ・グッドフェロー』。魔法の収納を持つ自分で言うのもなんだがかなりの強さを誇る冒険者だ。
今は、大陸有数の実力と知名度を誇る冒険者パーティー【ゴールデンウィンド】の荷物持ちをしている。力を隠して僕にふさわしい仲間を探している過程でコイツらと出会った。
冒険者登録して採取クエスト等で日銭を稼いでいた時に、このパーティーから加入しないかとの声がかかった。このギルドでは最強とか言われているから、まあ許可してやった。
けど、最悪だった。猫かぶってると、コイツらは僕が弱いと思って調子に乗り始めた。役立たずと毎日罵られて、暴行を受ける日々。そろそろヤるか?
今、僕たちがいるのは、王国で最高クラス難易度の『原始のダンジョン』の地下39層で見つけた宝物部屋だ。
ゴツゴツとした岩壁に囲まれた、魔法の灯りで照らされた広い部屋の中央に宝箱が1つあり、その前に仕掛けられた落とし穴を魔法使いのポポロが感知し発動させて避けて進んだ。
ポポロが魔法で罠がない事を確認し僕が宝箱を開けると、中にあったのは謎の袋だった。鑑定の魔法をポポロがかける。それは魔法の袋、僕よりも容量が大きい収納魔法がかけてあるそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「脱ぐんじゃねーよ。お前の服なんかいらんわ。この役立たずの変態クソ野郎! 達者で暮らせよ!」
勇者アレフは魔法の袋に荷物を入れると、僕に背を向けた。
「アレフさん、冗談ですよね?」
僕は全裸で勇者の背中に話しかける。
「冗談じゃねーよ! 今まで面倒みてやった分の報酬は、少ねーがお前の持ち物で勘弁してやるよ。まあ、服まで取らない分感謝するんだな、ハハッ」
「うわっ。アレフやっさしーい」
「ついてくんなよゴミ虫!」
ポポロとマリアは僕に背を向けて、それぞれアレフの腕にしがみついた。馬鹿なのか? 人に背中を向けて。油断し過ぎだろ。
「じゃあな! 無事に戻ってきたら1杯奢ってやるよ!」
ダニーも僕に背を向ける。コイツも戦士失格だな。
「待ってくれ! 置いて行かないでくれ!」
僕はダニーに駆け寄りしがみつく。もう少し演技するか。
「触んなよ! カス野郎!」
ダニーは僕を振り払うと、激しく僕を殴りつけた。もう、いいか。ヤるか。
僕はふっとばされた振りをして地面に倒れる。4人は僕に背中を向ける。素人が。
「ちょいやっさー!」
ドカッ! ボコッ! ペシッ! ペシッ!
ソッコー駆け寄り後ろからぶん殴り4人の意識を刈り取ってやった。コイツら阿呆で雑魚だな。そして1人1人服と装備を全ての剥ぎ取り収納に入れる。まあ、僕は優しいから水と食料だけは残してやる。ダンジョン全裸攻略。まあ、4人はソコソコ強いから這い上がって来るだろう。けど、先に追い剥ぎしたのはコイツらだから問題無いだろう。僕は部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で、どうだった?」
僕の顔をハイエルフのノノが覗きこんでいる。あ、夢だったのか。そうだ。ノノが開発中の魔法『トラウマ克服』を試したんだった。
「んー、なんか若干、僕のキャラがおかしかったような?」
「じゃ、大丈夫かしら。お前は元々おかしいわ」
「…………」
そして、その後、ノノはその魔法を売り出したのだが、悪質な依存性のある魔法として摘発されていた。
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