冬の空
「ああー、もう、オリオン座見えてるわ……」
マイの声に僕は空を仰ぐ。うん、オリオン座だ。なんて言うかキラキラしていて、陳腐だけど宝石みたいだ。
僕たちは今日は街から結構近い山にゴブリンが現れたという事でその討伐依頼を遂行してきた所だ。寒い寒い言うアンを無理矢理連れて来たら、トチ狂ってドラゴンに戻りやがった。ドラゴン状態だと熱さ寒さには強くなるらしい。当然ドラゴンを見たゴブリンは逃げ惑いそれを全部討伐するのは至難の技だった。それで、帰りは遅くなり、夜の寒い街道を歩いている次第だ。
空を仰ぐと星が降ってくる。目が闇に慣れてより暗い星の光が見えるようになるからだ。僕らの周りで光るものは星だけ。寒いけどつい僕たちは息をのみ足を止め空を見つめる。
「あ、天の川ですね」
アンが呟く。オリオン座の左にうっすらと輝く星の帯それが空を横切っている。
「冬も天の川あるんだな」
「そうね、夏に比べて暗いけどね。けど、その代わり冬の空は明るい星が沢山で綺麗だわ」
「マイ、明るい星には名前がついてるんだろオリオン座のあの赤い星ってなんて名前なんだ?」
「ベテルギウスよ」
「ん、へってるジュース?」
「ベテルギウス!」
「ん、ベテルギウス? なんか覚えにくい言いにくい名前だな」
「もう私は覚えましたよ。『へってるジュース』もとい『ベテルギウス』ですね。赤いからそのジュースはトマトジュースですね」
「ベテルギウスって、巨人の肩って意味だって言われていたけど、本当はそうじゃなくて、何て意味か分からないらしいのよ」
「意味不明な言葉なのか。そりゃ発音しにくいし覚えにくいよな。で、下の青白いのは?」
「リゲルよ」
「モゲルですか?」
「アン、モとリは違いすぎるだろ」
「けど、これで星の名前一発で覚えられたですよね」
「まあな。けど、俺の中ではあの星はもう『モゲル』だな。人前で名前間違って『メゲル』事だろうな」
「その時は慰めて『アゲル』わ。で、あの星はリゲルで足とかいう意味らしいわ。そしてその左下のめっちゃ明るい星がおおいぬ座のシリウス」
ペチン!
「何してるアン?」
アンが僕のお尻を何故か叩いた。ん?
「それは『シリウツ』だろ」
「キャッ、何触ってるのよ」
次はアンはマイのお尻を触っている。
「マイ姉様、尻薄いですね。シリウスい」
「もう、何やってるのよ」
決してマイのお尻は薄いとは思わないが、ここで口をつぐむのがジェントルマンだ。
「そして、その左斜め上にあるのがこいぬ座のプロキオンよ。犬の前って意味らしいわ」
「なんか、謎の星の名前語呂合わせになってたけど、それは無理だな」
「そうですね、その名前、2秒で忘れる自信があります」
「まあ、覚えなくてもいいんじゃないの? この3つの星が冬の大三角形よ。さっきのおおいぬ座シリウスからこいぬ座プロキオン、その上にある二つ星の明るい方ふたご座ポルックス、その右上の五角形の星の1番明るい星のぎょしゃ座カペラ、その近くのあかい星のおうし座アルデバラン。そしてオリオン座リゲルを繋いだのが冬のダイヤモンドって言うそうよ」
「ん、確かにダイヤモンドだけど、いびつな形のダイヤモンドだな。なんかこじつけっぽいな」
「まあ、けど、綺麗だからいいんじゃない?」
「そう言えば、オリオン座の隣っておうし座なんですよね。オリオンって牛とにらめっこしてるんですよね。なんか、オリオンってご主人様みたいですね。ご主人様と対峙するミノタウロス」
「そうか、オリオンってめっちゃ強い奴なんだろ。それは光栄だな」
「まあ、強さと言うか見かけですね。なんか星図とかにのってるオリオンの絵って、ひげもじゃで腰蓑に右手に棍棒、左手にぼろ布みたいなの持ってるじゃないですか。あれってまんま私と出会った時のご主人様ですよね」
「そうね。ザップみたいね」
「そうか。野蛮人スタイルが似てるって事か。それで俺がオリオンでミノタウロスと戦ってるって事は後ろの2つの明るい星はマイとアンだな」
「うわ、それって酷くない? あれっておおいぬ座とこいぬ座よ。犬に例えるのは酷いわ」
「いや、違うって、星みたいに輝いてるって事で」
「はいはい、それでいいわ。なんか体が冷えて来たし、オリオンと猟犬は走って家に帰りましょ」
マイとアンは駆け出す。もしかして怒ってるのか?
そして、僕も星明かりの中走り出す。怒っては無いみたいだ。
たまには寒いけど星を見るのもいいもんだな。僕たちの吐く息は白くそれが天の川になってるように見えた。
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