蟻とキリギリス
「お主のこれからの未来は大きく2つに分かれておる」
まさに魔女って感じの老婆は懐から出した水晶球みたいのを宙に浮かべ、それ越しに僕を見つめている。『浮遊』。聞いた事がある。物や人を浮かせる魔法。魔女って感じじゃなく実際魔女だな。
道を歩いていた僕にいきなり辻占いをしていた婆さんがすがりついて来て、どうしても占いたいって言うので根負けして占って貰ってる。僕は占いとかは信じない質なのにな。
まあ、しぶしぶ占いのテーブルにつく。
「で、どのように分かれてるんだ?」
僕の問いに魔女は目を細める。
「そうじゃのー。分かり易く言うとこういう寓話がある」
そして婆さんは語りはじめた。それは子供でも知っている『蟻とキリギリス』という話だった。
夏にせっせと働いて食べ物を貯める蟻。歌って遊んでいるキリギリス。冬が来ても蟻は夏の蓄えで問題なかったが、キリギリスは食べ物が無く困ったとかいう話だ。
「まあ、要は、お主は、楽しく遊んで今を過ごすか、それともコツコツ生きて行くかの分岐に立ってるという事だな。しかもそれで運命が大きく変わってくるみたいじゃのー」
なんだそれは。それは僕だけじゃなく誰にでも当てはまる事なんじゃ? わざわざすがりついてまで占った結果としては陳腐過ぎるな。けど、その寓話は前々から思っていたけどおかしいよな。ミスリーディングだ。
「婆さん、蟻かキリギリスか選べっていうのは足りてないよな」
「ん、何の事じゃ?」
「まあ、聞けよ。実際存在するのは二択じゃなくて四択だろう。蟻、キリギリス、蟻でキリギリス、蟻でもキリギリスでもない」
「…………」
婆さんは答えない。考え込んでるみたいだ。
「俺は強欲だ。そういう選択肢があれば迷わず選ぶ。蟻のようにコツコツ蓄えながらキリギリスのように豪快に楽しんでやる。俺は『蟻でキリギリス』だ!」
「けど、お主、それは無理じゃろう。多分苦労が絶えない選択じゃろう。だから皆、それを選ばないんじゃなく選べないんじゃないかしら」
老婆は顔を顰める。その考え年の功ってやつか。
「ハッハー! 何言ってやがる。婆さん、全力で生きてるか? 1日全力で生きたら、次の日は前の日より、なにかしら力を得ている。それを1年365日続けたらかなり強くなれるだろ。『蟻でキリギリス』になるのを選ぶくらい簡単な事だ!」
「そうか、2つの大きな分かれ道をならして飲み込んで1本のもっと大きな道に変えるつもりなのか」
「そうだな、未来が分かれてるならその両方からいいとこ取りしてやるよ。まあ、婆さん、面白い話だった。じゃあまたな」
僕は見料の銀貨をテーブルに置いて立ち去った。
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