ピックポケット
「あっ、すみません。ぼーっとしてたもんで」
目の前で背の高いオッサンが小太りのオッサンにぶつかって謝っている。あれ、あの背が高い眼帯をした出っ歯のオッサンはラットって名前の凄腕スカウト。往来で人にぶつかるようなたまじゃない。ラットはふらふらとこっちに歩いて来ると、僕にもぶつかる。
「あ、すみません。すみません」
そう言うと、ふらふら立ち去ろうとする。酔っ払ってるのか? それともラリってるのか? 僕に気付いた気配が無い。足になんか違和感を感じて触るとポケットがゴワゴワしている。取り出すといつの間にか封筒が入っている。解かれた封印はかなり複雑な紋章。どっかで見た事がある。これは多分ラットが入れたんだろう。即座に僕はそれを収納に入れる。共犯にされたら困る。ラットは小太りのオッサンからこれをスリ取りやがったんだな。そして僕に渡した。証拠隠滅のため。
「あ、無い! 無いぞ! お前たちさっきの眼帯のヤツだ。あいつを捕まえろ。おっと、そこの地味顔も捕まえろ」
小太りがギャーギャー喚き始める。ん、地味顔って僕か? 小太りのそばにいたガタイが良くてガラが悪い男たちが駆け出す。そして、そのうち2人がラットをひきずってきて、そのうち1人は僕についてこいと言うから付いてきた。そして僕はは路地裏に連れていかれる。何が起きるのかワクワクする。
「お前。痛い目にあいたくなかったら私から取った封筒を返せ!」
小太りがラットに凄む。ラットは酔っ払ったような目で小太りを見る。
「旦那ーっ。あっしは何もしてないですよ」
「シラを切るな。コイツの体を徹底的に調べろ」
ラットを男たちが調べるが当然封筒は出て来ない。
「多分、コイツが共犯だ。コイツも調べろ」
「おい、おっさん。調べてもいいが、俺から何も出て来ない時はどうするんだ?」
僕は腕を組んで凄む。
「そうだな。大金貨1枚くれてやる」
「ありがとう。それ乗ったーっ! 好きなだけ調べろ」
僕は上機嫌で服を脱いで男たちに渡していく。当然パンツも呆気に取られてる男に渡す。ただ脱ぐだけで大金貨1枚の素晴らしいお仕事だ。しかも路地裏なので人目も無いし。当然封筒なんか出てこない。魔法の収納の中だもんな。
「ぐうぅ。ほらよ。受け取れ」
僕は大金貨を受け取り服を着る。小太りと男たちは去っていく。アイツら馬鹿なのか? 収納持ちかもとか考えないのか?
「兄さん。助かったよ。仕事は完璧だったのに。まさかあんなにすぐに気付くとはな」
ラットはいつもの渋い声で話す。やっぱさっきのは演技か。
「何で俺を巻き込んだんだ?」
「ついついですよ。兄さんなら信用出来るし、もし、なんかあったの時にあっしを守って貰おうなんてケチな考え出しちまったって訳でさぁ。けど、兄さんもっと気をつけたがいいですぜ。怪しいヤツがきたらよけないと。あっしらはその当たった衝撃を利用してギってるんですぜ」
そうなのか。よく、話とかでスリがぶつかってから盗るのってそういうからくりなのか。
「これどうすればいいんだ?」
僕が出した封筒をラットは受け取ると着火の魔法で燃やし去った。
「とあるやんごとなき方が、悪徳貴族に大事な封書を奪われて困ってましてね。あっしはスカウトだっつーのにシーフの真似事なんぞさせられちまいました。それにしてもいい脱ぎっぷりで。あの貴族も兄さんとは関わらない方がいいと思ったんでしょうね。けど、そんだけ貰ったら、あっしは兄さんには銭払わなくても良さそうですね」
「ああ、そうだな。むしろ奢ってやるから飲みに行くぞ。そのやんごとなき方の事をもっと教えてくれ」
僕はラットと肩を組む。思い出した。さっきの封筒の封印はこの国の王のポルトの私用印だ。今日は楽しい酒が飲めそうだ。
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