ラパンとザップ(危機)
「ガハッ!」
ザップが土の槍に串刺しにされ、口から血を吐き出しながらもがいている。ヤバい、いくらザップでもこのままじゃ死んじゃう。けど、あたしは震えて体が動かない。
ザップの手からハンマーが消え失せ、ザップは力強く刺さった槍を握りしめる。
漆黒の巨大なドラゴンの姿が輪郭を失い、黒い霧になり集まって人の形になる。
骸骨のような鎧とマント、そして動物の頭骨がその頭に現れる。
え、アカ兄様。
「どんなに強い歴戦の勇士も、攻撃する瞬間は無防備だ。その時は体を纏う鋼の様な筋肉でさえ、ただの水袋と化す。搦め手を使わずとも勝負にはなったと思うが、私は運否天賦では戦わないのだよ。完全に勝てる環境を作ってからしか勝負はしない」
薄暗い大部屋に兄様の抑揚の無い低い声が響く。なんで兄様が?
「ザーーップ!」
「ご主人様!」
マイさんとアンちゃんが駆け出す。兄様に向かって。
「マッドスワンプ」
アカ兄様のからほとばしる魔力がマイさんたちの足下に広がる。その瞬間、2人はつんのめりこらえて、なんとかその場に立ち止まる。その膝くらいまでが床にめり込んでる。泥沼の魔法、地面を柔らかい泥に変える土属性の魔法だ。
「王家の爆炎、守護家の暴風に比べたら、私の大地の力は軽視されがちだが、なかなかのものだろう。炎は消え、風は止むものだが大地はあり続けるものなのだよ」
兄様は言葉を紡ぐ。けど、なんか違う。遠くから聞こえてくるような、なんか声に感情が無いように聞こえる。黒竜が兄様になったって事は……
「大公、もしかして禁忌を……」
ジブルが言う禁忌には思い当たりがある。人が化生となり得るもの。魔道都市で禁じられている魔道実験。人と魔物の融合……
「導師ジブル、私の望みのためには禁じられるものなど存在しないのだよ」
兄様はあたしたちの方を指差す。
「カースオブストーン」
兄様の指から放たれた光の筋があたしたちに襲いかかる。あたしは咄嗟に何も出来ない。ジブルの前に出来た障壁みたいなのが、あたしたちへ向かって来た光は四散したけど、先行していたマイさんとアンちゃんには突き刺さる。
「キャア!」
「アアッ!」
2人は光が当たった所から体が色を失い石化してしまった。
「マーイ! アーン!」
ザップが叫ぶ。あたしは、あたしは何をしたら、どうしたらいいの? あたしに今出来る事は……
「油虫のようにしぶとい奴だな、お前も石になれ」
大公の手から出た光がザップの胸に命中する。そこから石化が始まる。
「ジブル逃げろ!」
ザップが叫ぶ。レスキューの指輪を使えって事だと思う。時間は無い。やるしか無い。あたしを助けてくれたザップをあたしが助ける。
「ザップ! ア・ウルラ・デル・マニカ!」
まさか、この魔法が役に立つ日が来るとは。かつて心が闇に落ちかけた時に禁書から学んだ古代魔法。『魂魄転換』。これで、あたしとザップの体が入れ替わる。え、時間が時間が足りない! そして、あたしの意識は闇に飲み込まれて行った……
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