プレコグ
「プレコグ、正式にはプレコグニション。予見とか予知とかいう意味よ」
僕の前に座っている見目麗しいエルフ少女が顔の前で手を組んでいる。その上目遣いは神秘的でありながらも可愛らしい。
「今の魔法はショートプレコグ。少し先の未来を見る魔法。未来は不定であるけど、ある程度の方向性を持って進んでいる。この魔法は正確には今まで起こった事象を元に1番起こりうる事象を対象に見せる魔法」
「ん、待てよ。それなら占いとかと何らか変わらないんじゃないか? 実際の未来を見てる訳じゃないんだよな? それに1番起こりうる事象って事は、誰かが判断してるように聞こえるんだが?」
なんかいまいち分からないけど、未来の予測で1番そうなりそうなのを誰かが選んで見せたって事だよな。
「そうよ、選んでるのよ」
「誰が?」
「お前よ。お前の意識には浮かばないけど、お前の全ての頭脳を駆使して選んだ結果よ。元々、生き物には予知能力があるのよ。いや、分かりやすく言うと、無意識的に自分へ訪れる危機に対して常に予測してるのよ。それを信じるか信じないかだけよ。この魔法は、辺りの情報を頭にさらに加えて、その判断精度を上げてるに過ぎないわ。けど、お前もこの魔法の精度は体験してるでしょう」
「まあ、そうだな」
神竜王との戦いの時に、この魔法を進化させたものには助けられた。けど、なんか釈然としない。僕が予測してる未来ってそんなに精度が高いのか?
「けど、今見た未来、俺が変えて見せる!」
「で、お前は何を見たの?」
「この後、みんなでうどん食べてた」
僕はうどんを食べるという未来に抗ってみせる。
「そうなのね。今日はうどんなのね」
おいエルフ。うどんくらいでそんなに破顔するなよ。一瞬見惚れちまった。うどんを喜んでる顔に……
「じゃ、ノノも手伝ってこよ」
キッチンに向かうノノについて行く。果たしてマイがうどんを茹でてた。
「マイ、今日はうどんって気分じゃないんだ。パン、パンだけでいいよ」
「そうなの? わかったー」
マイは気を悪くしなかったみたいだ。
「「いただきます」」
今日の朝ごはんは僕以外はうどん。僕はボソボソのパンをちぎって口に入れている。何が予知だ。簡単に翻るじゃないか。ノノの魔法も大した事無いな。
ズルズルゴクゴク!
アンが麺を啜った勢いに任せてつゆも飲み干す。相変わらず下品な奴だ。
「マイ姉様、もう1杯」
「しょうがないわね」
おかわりスムーズに貰えたな。そっか僕の分余ったからか。けど、今の一連でそれまでほんわかだったうどんの出汁の香りが激しく辺りを包み込む。
ズルズル。
ジブルは相変わらずちまちま食ってやがるな。そして丼を上げて中に浮いてた玉子をちゅるんと飲み込む。やべ、玉子美味そう。くそっ、なんで僕はこんなパンなんか食ってるんだよ。
ゴクリッ!
ついつい喉が鳴る。うどん美味そうだな……
コテン!
僕の目の前にうどんが入った丼が現れる。その下には収納のポータル。マイが出したんだ。箸も上に乗っている。
「いただきますっ!」
僕は弾かれるようにそれを手にし、勢いよく麺をかっ込む。熱い。あとこの出汁の旨み。最高だ。うどん最高だよ!
そして、一気に麺を啜りこんで顔を上げると視線を感じる。ノノが悪魔のような笑顔で僕を見ている。そうだな僕の負けだ。プレコグの魔法恐るべし!
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