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番外編SS 荷物持ち英霊と見える【後編】


「前のご主人様、顔は忘れましたが、安らかに眠って下さい」


 アンは墓前で手を合わせる。僕らもそれに倣う。それにしても顔を忘れたはひどすぎる。


「これで、アンジュさんもこの剣の所有権を手に入れたと思われます。抜いてみますか?」


「うん、試してみるっす」


 アンジュが刺さっている剣に手をかける。


 ウオォオオオオォオーン!


 地の底から何かの鳴き声みたいなものが聞こえる。


「この剣は、聖剣デーモンスクリーム。鞘から抜くと常にいままで倒した者の慟哭が辺りに響きます」


 アンが解説する。それって聖剣なのか? 間違いなく呪いの剣じゃないのか?


「気持ち悪っ! 無理無理っす。ザップ兄さんお願いします」


 アンジュは引き下がる。


「しょうがないな。大したことないだろ」


 僕はついつい肝試しでかっこいい所を見せるような感覚でその気持ち悪い剣を引き抜いてしまった。



 ゴゴゴゴゴゴッ



 引き抜いた瞬間、剣は消えてアンの前の主人の墓所の盛り土が横にスライドして更に下層への階段が現れた。


「地下49層までって中途半端だと思ったら、まだ下があったのか。アン、この先には何がいる?」


「多分、たしか前のご主人様達の英霊がいるはずです」


「強いのか?」


「強いはずです」


 僕たちは階段を降りて行く。


「英霊って要は幽霊でしょ、あたしはそういうのはあまり得意では……」


 マイは、アンデッド系は苦手だ。もしかしたら他の4人も苦手なのでは。


「アンジュ、俺とお前たちどっちが英霊と戦うか?」


「すみません、私たちも幽霊とかはちょっと……」


「そうか、なら仕方ないな」


 僕は笑顔がこぼれそうになるのを必死で堪える。やっと僕の番がやってきたのに、彼女たちに心変わりされたら困る。アンジュから愛用のハンマーを受け取り、先頭を歩く。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お前が我々の意思を継ぐ者か。それにしては冴えない顔をしてるな」


「ほっとけ」


 何が悲しくて、迷宮の深層でスケルトンに顔についてこきおろされなきゃならんのだろうか。


 ここは大広間で僕の前には豪華な装備に身をつつんだ4体のスケルトンがいる。他のみんなは遠巻きに僕らを見ている。


「見事我らを打ち倒す事が出来たならこの聖剣をお前に託そう」


 あ、さっきの不気味なうめき声あげる剣だ。


「それはいらん。けど戦え」


「………………」


 しばらくスケルトンは固まった。


「聖剣だぞ、かっこいいし壊れないし強いぞ」


 かなり知能指数低そうな話し方してるな。聖剣を受け取って貰えないのがそんなにショックなのか? 逆にそんな気持ち悪い剣を受け取って貰えると思ってたのか?


「ばかなのかお前は、そんな夜泣きするような剣、誰が欲しがるか!」


「わかった、ちゃんと完全防音の鞘をつけるから」


 それでも剣を抜いて戦うたびに鳴かれたらウザすぎる。


「だからいらないって、四の五の言わず戦え」


「報償がいらないとは。それなら勇気ある者よ、お前は何のために戦うのか?」


 何のために戦う? そんなの聞かれるまでも無い。


「生きるために決まってるだろ」


「そうか、解った。それなら行くぞ」


 聖剣を持ったスケルトンは大仰に頷く。そして、スケルトン4体は散開する。さすが歴戦の勇士たち。動きに無駄がない。おお、やった強そうだ。思いっきり戦えるな。


 ガキーン!


 大柄な戦士のスケルトンの大剣の横凪ぎをハンマーで受ける。勢いを殺せず、横っ飛びで衝撃を流す。おお、手が痺れた。凄まじい一撃だ。


「アブソリュート・ゼロ」


 魔法使いのスケルトンの杖から出た吹雪が僕に襲いかかる。これはヤバイ奴だ。咄嗟に収納にしまうが余波だけでハンマーに霜がつく。


 これだ!


 これが戦いだ!


 僕が最近飢えていたものだ。血がたぎる。


「ウオオオオオオオッ!」


 僕は歓喜の雄叫びを上げる。


「せいっ!」


 僕のハンマーの1撃を僧侶風のスケルトンが魔法の障壁でそれを阻む。貧弱だ。その障壁をへし破りそのままスケルトンごと叩き潰す。まず1体。


「どおおおりゃーっ」


 回転しながら遠心力に自分の体重をのせて更に筋力で加速した1撃を戦士に叩き込む。大剣で受けられるが、その固い大剣があだになった。ハンマーに押された大剣が勢いを殺せず戦士の体を押しつぶす。これで2体目。


「アーク・テンペスト!」


 荒れ狂う真空を纏った暴風が僕に襲いかかる。軽く身を切るが、その暴風を収納にいただき、無防備なスケルトン魔法使いを下凪ぎのスイングで叩き飛ばす。3体目。


「カッカッカッカッ、ばかみたいに強い奴だな。それに面白い程真っ直ぐだ」


 アンの主人だった勇者スケルトンが笑う。なんで勇者かって? 僧侶、戦士、魔法使いときたら次は勇者に決まってる。


 天に気持ち悪い聖剣を振り上げる。


「来い! 真っ向勝負だ!」


 僕は勇者スケルトンに向かって駆け出す。


 シンプルだ。勇者スケルトンは僕に剣を振り下ろす。

 僕は勇者スケルトンを横薙ぎで叩き潰す。先により強い攻撃を当てた方が勝ちだ。



 ドゴッ!



 僕たちは交錯する。弧を描きながら僕の右腕が血をまき散らし飛んで行く。それを落下点まで走り受け取り元の位置に押しつけエリクサーでくっつける。


 紙一重だった。もしもう少し遅ければ頭から両断されていた。


 勇者スケルトンを見ると胸から下は無くなっている。けど、何故か浮いている。


「フフフフッ。さすがだ勇士よ、これを受け取れ」


「ああ」


 僕は気持ち悪い剣を受け取る。


 勇者スケルトンはボロボロと粉になって消え去った。


「それにしても、気持ち良いくらいに力押しね」


 そばに駆け寄って来たマイが微笑む。


「前のご主人様、笑ってましたね」


 アンが僕の手を握る。


「アンちゃん、寂しいのね。今だけはザップの手を貸してあげる」


「さすが、魔王っすね、勇者も一撃でしたね」


 アンジュたち4人も駆け寄って来る。


「生きるため……か……」


 僕は皆を見る。なんか、暖かい感じがする。戦うのは生きるためだけじゃなくなってきてるような……


 辺りを調べたけど、降りる階段は見つからなかった。


 それから僕たちは勇者スケルトンが持ってた剣をまた墓標にして、町に向かった。


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