ラパンとザップ(迷宮に出発)
「ねぇ、ザップ、似合ってる?」
あたしはザップの前で、くるんと一回りする。2つにまとめた髪の毛がふわっと浮く。ショートパンツとシャツにブーツに杖という、駆け出しの冒険者の魔法使いスタイル。魔道都市の魔法使いはローブが主流だけど、ここでは迷宮に潜るから動きやすい格好が多いらしい。今着ている装備はマイさんに選んで貰ったものだ。マイさんとおそろのショートパンツが少し嬉しい。けど、ちょっとどきどきする。生まれて初めてのショートパンツ。太股がスースーして、なんかパンツだけで歩いてるみたい。はしたないからってあたしは今までずっとスカートだった。
ザップはあたしの顔をじっと見つめている。あたしが可愛いから? そうだったらいいな。
「どうしたの、そんなにあたしを見つめて?」
「いや、なんで、いつも俺指名かなって思って」
「それは、ザップはあたしの恩人だから。感謝してるし大好きよ」
フツメンだけど、ザップは優しいから大好きよ。
「ありがとう」
なんか心が足りないけど、なんか耳そして、顔が赤くなってる。ザップっておじさんな割にはシャイなのね。尊いわー。
「あー、ザップ、赤くなってる! あたしだって……」
マイさんがごにょごにょ言ってる。マイさんがザップを好きってザップ以外みんな知ってるからもっと攻めればいいのに。このままならあたしにもワンチャンあるわ。
あたしたちは、魔道ギルドのこの町の本部、いわゆるタワーの入り口のロビーで、ミケとジブルを待っている。ザップはあたしが顔バレしないか心配みたいだけど、あたしはずっと引き籠もってたから、父様母様くらいしかあたしって分からないはず。
部屋の中央の魔道昇降機の扉が開き2人が出て来る。
「お待たせしました」
ジブルはとんがり帽子に黒のローブと悪趣味な骨つきの杖。見た目可愛いからもっと可愛くすればいいのに。
「では、冒険者ギルドに行きましょう」
ミケは魔道騎士の標準装備だ。銀色フルプレートメイルが頼もしい。どこからどう見ても立派な騎士だ。いつものポンコツっぷりが嘘みたい。
「待たせてごめんね、なかなかこれが貰えなくて」
ジブルが指輪を見せる。魔法がかかっている。しかも強い。何の魔法だろう?
「失われた魔法のレスキューが一回だけ使える指輪よ。もしこれのお世話になる事があったら、ラ、ラファが貰ったスキルポーション分を相殺してお釣りがくる金額になるわ」
レスキューの指輪。そんな貴重な物を貸し出してくれるなんて、さすが魔道士ギルドの本部ね。
「あのー、レスキューって何ですか」
アンちゃんが手を上げる。
「な、なんとですね、迷宮から一瞬にして入り口に戻れる魔法なんですよ。手を繋がないといけないっていう制約はありますが」
まあ、けど、あくまでも保険よね。ザップは強いからこれの世話にはならないと思うわ。
やっとこれで迷宮に入れる。普通だったら野営の道具や食料とかかなりの荷物になるらしいけど、ザップの収納に全部入ってるそうだ。ザップ最高!
暗い迷宮の中、迫り来る魔物、目もくらむような宝物。そして、美しい友情と、燃えるような恋。今まで読んだ冒険小説のような事がこれから待ってると思うと、めっちゃドキドキする。せめて、もう1人くらい男の人がいるといいのにな。出来ればイケメンエルフ! そんな妄想しながら、あたしはザップについて行く。