番外編SS 荷物持ち英霊と見える【中編】
「お前ら、いきなり脱ぐな!」
僕は背を向け、噴水の部屋の隣へ全力で逃げる。
「ザップも一緒に水あびしましょうよー」
マイの声が背中越しに聞こえる。
僕がエリクサーを補充しているときに、どんどん下着姿の少女たちが泉に飛び込んで来た。間違いなく僕があたふたするのを見て楽しんでやがる。くっそー、開き直って一緒に入ってやれば良かった。僕は少しだけ後悔した。
この『原始の迷宮』と言えば鉄板焼き肉。携帯魔道コンロの上に置いた焼き肉用のミノタウロスの斧の上でヘルハウンドの肉を焼いて食べる。今は多彩な調味料があるのであの時よりも更に美味しい。塩コショウ、焼き肉のタレ、塩タレなどで美味しくいただく。やっぱりマイの料理は最高だ。
エリクサーを補充して、なんとなく誰も居るはずのない、アンがいた大部屋へ進む。みんなもついてくる。
「おかしいですね、ドラゴンの気配がします」
アンがみんなを静止する。
「私がここを離れて時間も経ちましたし、新しい守護者を迷宮が召喚したのかもしれないですね。なんか少し寂しい気がしますね」
僕たちが進むと、果たしてそこにはドラゴンがいた。
「全体防御」
ドラゴンのブレスを神官戦士ミカの魔法障壁が遮断する。もったいないので、障壁の外にでて美味しくブレスをいただく。
「今回は、あたしとアンとアンジュで勝った者が戦いましょ。当然、あそこで嬉しそうにブレスを浴びてる変態は除外で。1撃で終わってしまうから」
マイが勝手に話を進める。変態呼ばわりは少しショックだ。
「おい、待てよ、俺をのけ者にするな」
「「ジャンケン、ポン」」
戦士アンジュが勝って、神官戦士のミカ、レンジャーのデル、魔法使いルルの冒険者4人が戦闘権利を獲得した。
「グオオオオオオオン!」
ドラゴンが咆哮する。よく見るとこのドラゴンの体はドラゴン状態のアンより少し小さい気がする。
恐慌効果のある、ドラゴンの咆哮にも誰1人として怯えない。
「ていっ! ていっ!」
レンジャーのデルが走りながら2本矢を投げる。ぎりぎり目視出来たそれは、ドラゴンの両目を潰す。えげつねー。
「ファイヤーボルト!」
高々と跳躍したルルの両手から発生した、矢と言うより巨大な炎の柱がドラゴンを突き刺し大地に縫い止める。
「とうりゃっ!」
ゴッ!
いつの間にか上空に跳んでいた神官戦士のミカがドラゴンの頭を殴りつけて、大地に叩きつける。
「とどめだっ!」
ゴウッ!
戦士アンジュが僕のミノタウロスのハンマーでドラゴンの眉間をたたき割る。ドラゴンは痙攣しピクリとも動かなくなる。それにしても野蛮で脳筋な戦い方だ。ドラゴンに対して完全に力押し。可憐な少女たちの見た目からは想像もつかない。
「貧弱なドラゴンっすねー。アン姉様と比べたら弱すぎるっす」
アンジュは不満げだ。いやいやドラゴンが弱いのではなくおまえらが強すぎるのだろう。いったいマイとアンは彼女らにどんな修行を積んだのだろうか?
ドラゴンの死骸をマイが血抜きして収納にしまう。やれやれ、ドラゴンも食材なのか。
それから僕たちは更に奥の、アンの前の主人の墓所へと進んだ。