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 引き篭もりを、引きずり出せ!


「え、嫌だよ。面倒くさそうだ」


 僕は読んでる本から目を離さず答える。ポルトの奴、最近僕を便利屋かなんかと勘違いしてるんじゃないか? それに僕は万能じゃない。何でも出来るわけじゃない。


「じゃあたしが引き受けようかな?」


 しばし考える。ポルト、この国の国王様から押しつけられた依頼は、貴族の引き篭もりのオッサンを無理矢理冒険に連れ出せというものだ。なんで僕がオッサンなんかと冒険せにゃならんのかと思ったが、マイとオッサンを冒険させるのはなんかやだな。なんかセクハラとかされたらそのオッサンを半殺しにしてしまいそうだ。


「待て、しょうがないな。ポルトには貸し1だ。マイ、俺が行く。あとは任せろ」


 なんかマイをオッサンに見せるのも嫌だ。



 

 ドンドンドンドン!


 僕は貴族の屋敷の引き篭もりの部屋のドアを叩く。出て来ねーな。鍵がかかってるが気にせず力づくで扉を開ける。


「なんだね。キミは」


 布団にくるまった肉塊から声がする。なんか饐えたような臭いがするが、気にせず布団を剥ぎ取ってやる。


「おい、オッサン。外に出ろ」


 相手は貴族の子弟、もっとも子弟と言うには薹が立ちすぎてる気もするが。まあ、地位ある者ではあるが、国王とコイツの両親から好きに扱っていいと言われている。


「何するんだよー。ボクは読書してるんだよー」


「読書は終了だ。今からお前は魔物討伐に行くんだ」


「もしかして、キミがパパが言ってたザップ君?」


「そうだが」


「なんでキミしか来てないの? 猫耳のマイちゃんは? ノーパンのアンちゃんは? あと、合法ロリのジブルちゃんは?」


 え、なんで僕の仲間の事知ってるんだ。なんかゾゾーッと背中が寒くなる。こっちは知らないのに相手がこっちの事を知ってるって、しかもそれがこ汚いオッサンだと気持ち悪い。それは置いといて、ノーパンが二つ名になってるアンにはもっと教育が必要だな。


「お前、なんで知ってる?」


「そりゃ、有名だよ。キミの本なら沢山出回ってるからね。女の子居ないならボクはここから出ないよ」


 けど、良かった。僕だけで来て。間違いなくコイツがマイやアンを見てるだけでぶん殴りそうだ。


 オッサンを観察する。無精髭にたるんだ体。けど、立っタッパはあるし腕も太い。まあ、剣でも持たせたら野良ゴブリンくらいなら問題無さそうだな。


「おら、行くぞ」


「止めてー。パパー。ママー!」


 字面だけだと、幼い子供が拉致られたみたいだが、コイツはオッサンだ。


「パパ、ママじゃない! 泣くな!」


 僕は泣き叫ぶ肉塊を抱えて部屋を出る。このまま肉屋に出荷してやりたい気分だ。


 ギルドで依頼も受けてるし、通門の許可証も持ってるので、肉塊を抱えてスムーズに街を出る事が出来た。けど、両手で頭上に泣き叫ぶオッサンを抱えているのは目立ち過ぎる。衛兵に何度も呼び止められたが僕の顔と軽い説明でお咎めなしだった。僕も顔が売れたもんだが、なんか複雑な気持ちだ。





「オッサン、アイツらを倒せ」


 震えるオッサンに普通の剣を握らせてゴブリンの前に立たせる。相手は4匹。なんですぐに見つかって欲しい時にはゴブリンは居ないんだろうか? もう日も暮れそうだ。長い時間オッサンを抱えて野山を駆け巡るのは中々の苦行だった。多分、僕じゃなかったら心が折れてただろう。今の僕にはゴブリンが神に見える。


「無理無理無理! ボクは生まれて初めて剣握ったんだよ」


「どんな最強の剣士でも初めてはあった。行け!」


 僕はオッサンをゴブリンに向かって蹴り出す。

 

「ウボッ!」


 奇声を上げてゴブリンに突撃するオッサン。


「「グギャーッ!」」


 血走った目でオッサンを囲むゴブリン達。


「ギャッ! グボッ! ギィエーーーッ! 死ぬ、殺される。助けて、助けてーッ」


 ゴブリンにリンチされるオッサン。けど大丈夫。オッサンの頭の上には僕の収納のスキルで生み出されたポータルが浮かんでいてそこから出たエリクサーがオッサンを癒し続けている。これで何があっても死なないはず?


「痛い痛い、あれ、怪我しない? 止めろーっ!」


 オッサンががむしゃら振るった剣がゴブリンの頭に当たる。吹っ飛ばされたゴブリンは動かなくなる。


「え、弱い?」


「そうだ。お前の方が強い。よく見て反撃しろ」


 それからは一方的だった。ゴブリンの武器をかわして一撃を入れる。それを数度繰り返すと、立ってるのはオッサンだけだった。まあ、もともとガタイがいいんだからやせ細った野良ゴブリンに負けるはずは無いんだ。


「ボクがゴブリンを……」


「良くやったな」


 そして、オッサンはその場で崩れ落ちる。極度の緊張が切れて気を失ってる。手のかかる奴だ。

 話ではオッサンは昔学校で苛められてから引き篭もったらしい。詳しくは聞かなかったけど、必要なものは自信だろう。僕がミノタウロスをドラゴンブレスで倒して変わったように、戦いに勝つという体験が何かを変えてくれたらいいがな。僕に出来るのはこんなことくらいだ。


 僕はオッサンを屋敷に届けて帰途についた。





「ザップさん。ありがとうございます」


「え、どなたですか?」


 王都のギルドで壮年の貴族が僕に話しかけてきた。その顔には見覚えがある。あ、引き篭もりのオッサン! 髭を剃って髪を整え仕立てがいい服を着てるその姿は問答無用の貴族だ。しかも体型も引き締まっている。


「ザップさんのおかげで一歩踏み出す事ができました」


 おいおい、一歩踏み出したってレベルじゃないだろ。別人になってるぞ。


 そして、その差し出された右手を僕は握る。力強く握り返してくる。間違いなく鍛錬を欠かしてないな。ゆっくりと手を離し、そして、頭を下げて彼は立ち去った。


「ねぇ、あれ誰?」


 マイが僕に問いかける。


「ああ、前の引き篭もりの貴族だ」


「え、太ってるって言ってなかった? じゃ上手く行ったのね。王様がまた依頼もってきたわ。そういう事なのね」


「おいおい、もう勘弁してくれ……」


「けど、ザップ。いつになく嬉しそうよ」


 そうかな。まあ、少し嬉しいかな? だがもう、引き篭もりは勘弁して欲しい。オッサンを抱えて走り回った地獄が頭に蘇る。


 


 読んでいただきありがとうございます。


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最強の荷物持ちの追放からはじまるハーレムライフ ~
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