三大珍味トリュフ
かなり手直ししました。やはり昼休憩の1時間で仕上げるのは難儀ですね。
「何の匂いだ?」
僕はキッチンの扉を開けて中に入る。いつも通りのマイの背中。中に入ると珍しい闖入者、ドラゴン娘アンも部屋に入ってくる。多分、僕同様謎の匂いに釣られて来たのだろう。
「珍しいわね。2人もキッチンに来るなんて」
マイが振り返る。
「マイ姉様、この匂いは何なんですか?」
さっきから何と言うか、木の香り、土の香り、雨が降る前のような香りがする。多分マイが持ってきた食材からだと思うが、そんな変わった匂いを放つ食べ物を口にした事も見た事もない。
「ザップもアンちゃんも匂いに釣られて来たのね。匂いの大元はコレよ」
マイが手にしてるのは黒い丸っこい物体。よく見ると表面がつぶつぶしていて、強烈な香りを放っている。なんかの実か何かか?
「何ですか? コレ」
「トリュフよ。黒トリュフ」
トリュフ。聞いた事がある。世界三大珍味と言われてるものの1つで、希少で高価なものだったと思う。キノコの一種だよな。
「へぇー、コレがトリュフですか。初めて見ました。で、トリュフって何ですか?」
「アンちゃんなのに知らないの? これはね。キノコの一種で、世界三大珍味の内の1つよ」
「三大チン味?」
アンの頭の上にクエスチョンマークが幻視できる。下ネタに行く前に止めないと。
「アン、珍味っていうのは珍しいのや変わった食べ物の事だぞ」
「そうなんですね。クンクン。なんかですね。なんかご主人様の部屋のような匂いがしますね」
僕もトリュフをしっかり嗅いでみる。ん、言われてみると、なんか男の魂の汗のような臭いもする。もしかしてバレてるのか? 背中に嫌な汗が……
「そっかー。俺はトリュフの匂いがするのかー。ハハッ」
乾いた笑いしか出ない。今後は男の仕事の後はソッコー風呂に入るとようにしよう……
「どうしたのザップ? 顔が赤いわよ?」
マイの無邪気な顔に、余計に僕を追い詰める。
「んー、あー、初めてのトリュフに興奮したんだと思うよ。それで、トリュフってどこに生えてんだ? キノコだから森か?」
我ながら大雑把な話題転換だ。けど、今の僕にはこれが精一杯だ……
「うん、森だけど、土の中の木の根っこに生えてるそうよ」
「え、じゃあどうやって探すんだ?」
土の中なら見えないよな。
「雌の豚に探させるそうよ。トリュフの匂いって発情した豚の雄の匂いに似てるそうよ」
マイの口から発情した豚の雄という言葉が出たのに、少し辟易する。え、という事は僕は発情した雄豚の臭いがするって事か、さらに嫌な汗が流れる。
「そっかー。豚って凄いんだなー」
つい、訳が分からない事を言ってしまう。
「あー、お肉、お肉隣から買って来ないと」
マイが部屋から駆け出す。
僕とアンの目は小皿に乗ったトリュフに注がれている。
「確かトリュフって生で食えるんだよな」
僕の言葉で、僕とアンの手はトリュフに伸びる。
ボリボリ……
「んー、なんだかなー。味しねーな」
ていうか不味い。けど、値が張るってだけでそれを口にはできなかった。貧乏性だな。
「そうですね。なんか懐かしい味。そう、泥、泥や土の味ですよ」
泥や土の味が懐かしいなんて不憫な奴だ。主人として二度とそんなものをアンに食べさせないようにしないとな。
けど、トリュフ、最悪だな。土やイカ臭くて、泥のような味。なんでこんなのが高価なんだ?
「あーっ。2人とも食べたでしょー。食べても美味しくないでしょ。トリュフって調味料のようなものなのよ。黒胡椒もそのまま食べても美味しくないけど、お肉にかけたら美味しいでしょ」
そうだったのか。でもこれが美味しくなるのか?
そして、その夜、ステーキのソースの上にマイがトリュフを削ってかけてくれた。芳醇な香りがついたステーキはいつもに増して美味しかった。そのまま食べて勿体ない事してしまった。僕は2度とトリュフをそのまま食べない事を心に刻んだ。それとトリュフのような臭いを残さない事も……
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