セブンシンズ
「で、どうする。受けるのか受けないのか。尻尾を巻いて帰ってもいいがお前は臆病者の誹りをうけるだろうな」
目の前の眼帯の男、バッジ商会の会頭エムズ・ブラウンは口の端を歪めている。コイツはそれなりの地位があるのに何でこんな勝負を挑むんだろうか? だが答えは1つだ。
「いいだろう。受けて立つ」
「ちょっとザップ、何言ってるの」
立ち上がるマイをなだめて、その猫耳に口を近づける。
「なぁに、大丈夫だ。多分、俺の度胸を試したいんだろう」
「うう……」
マイが大人しくなったのを確認して僕は口を開く。
「では、その『セブンシンズ』というヤツのルールを教えてくれ」
そして、会頭はルールを説明し始めた。
僕たちはとある情報を求めて様々なところを回ったところ、1人の男が浮かび上がってきた。
バッジ商会の会頭エムズ・ブラウン。
彼なら僕たちが求める情報を知っていると言う。バッジ商会、黒い噂がある商会で、金さえつめばどんなものでも手に入れてくれると言われている。希少な食料、名だたる絵画、果ては麻薬や毒物なども。
僕らはバッジ商会の本部に無策で乗り込み、当然荒くれ者の洗礼を受け、それを軽くひねり潰して会頭の部屋にいる。僕はほぼ戦う事なく、マイがことごとくぶっ飛ばしてくれた。僕よりマイの方が素早いから、いいとこ持ってかれたような感じだ。
そして、今、広い応部屋に盗賊にしか見えない商人に囲まれている会頭と卓を囲んでいる。僕の隣にはマイ。会頭の隣には厳ついガチムチな禿頭の男がついている。一触即発、なにかあればここは戦場になるだろう。
「ルールはシンプルだ」
会頭が説明した『セブンシンズ』と言うゲームのルールは、7杯の酒のグラスの1つに毒。親がグラスをシャッフル。まず子がのむ。次は子が親のグラスを選ぶ。毒を飲んで死んだら負け。
なかなか愉快なゲームだな。どんな味の毒が入っているのか楽しみだ。
テーブルの上に7つのショットグラスが置かれる。
「これは、『ドラゴンスリーパー』。ドラゴンですら飲んだら痺れて眠ったかのように動かなくなるって言われている猛毒だ。当然、人間にも効いて、弱いヤツだったら即死だな」
会頭は小瓶から無色の液体を出して1つのグラスに垂らす。
「親と子、どっちがいいか選ばせてやるぞ」
「子がいいわ」
マイが身を乗り出してくる。
「おい、もう少し考えさせてくれよ」
「ザップ、この勝負あたしが受けるわ」
「おいおい、何いってんだ?」
「ザップこそ、ザップそのお酒めっちゃ強いわよ。多分1杯でダウンよ」
「あっ……」
そうだよ。僕はお酒にめっちゃ弱い。勝負にならないな……
「グフフッ。姉ちゃんが勝負するのか。姉ちゃんは鍛えてるみたいだから即死はしないかもな。そんときは解毒してここで飼ってやるよ。べっぴんさんだから……」
ゴンッ!
マイが大きな音を立てて机を叩き立ち上がる。
「寝言は寝て言って」
ここに居る者は気付いただろうか? テーブルのグラスの中身がこぼれてない事に。マイは浮き上がったグラスを空中で掴んで優しくテーブルに置く。これを刹那で7回。会頭と会頭の横の用心棒は目を剥いている。この2人はそこそこやるようだな。
「早く始めて」
「ああ」
会頭に促されて僕とマイは後ろを向く。
「準備できたぞ、さあ選べ」
マイはグラスに手を伸ばす。
ゴクン、タン!
1つを選んで飲んでグラスを置く。
ゴクン、タン!
え、もう1つ? さらに飲み続け残るグラスはただ1つ。
「はい、次はあなたの番よ」
最後のグラスをマイは会頭に押し出す。
「ぐぅううううう……」
会頭は奥歯を噛みしめてる。ギリギリ音がする。
「降参だ。知ってる事を話そう。その前にいつすり替えた?」
「すり替え? そんな事してないわ」
マイは最後のグラスを手にしてクイッと飲む。
「それしきの毒、あたしには全く効かないわ。当然ザップにもね」
この、僕も上げてくれるマイの心尽くしが嬉しい。けど、僕、何もしてないな。
それから、素直になった会頭は有益な情報を提供してくれた。
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